2019年6月1日、八清初の京町家レンタルスペース「ヨリアイマチヤ」がオープンしました。
元呉服商の大型町家をリノベーション。地下鉄烏丸線五条駅から徒歩2分と立地も便利で、様々な用途に使えそうです。
そんなヨリアイマチヤについて、担当のプロパティマネジメント部、村田優さんに、八清パーク※事務局が取材しました。
※八清パーク・・八清に関わる人たちのコミュニティ。コンセプトは「暮らし楽しむ、八清でつながる」。詳しくはこちら。
新しい事業としての「レンタルスペース」
--八清ではじめてのレンタルスペースということですが、どういう経緯で始まったのでしょうか?
村田優さん(以下村田):これまで八清では、京町家の使い方として、住居に始まり、宿やコワーキングなど、新しい用途にチャレンジしてきました。
ある日社内で、「住む」「泊まる」「働く」以外の新しい事業にチャレンジしようと、時間貸しのレンタルスペースをやってみることになったんです。
そこで、駅も近く、規模も大きな今回の物件が選ばれました。
実は大型の町家はなかなか活用が難しいんです。住居にするには大きいし、建築基準法の関係で、床面積が100平方メートルを超えると宿の申請が難しかったという事情※もありました。
そこで、新しい事例を作りたいという意図があったんです。
※建築基準法は2019年6月に改正され、用途変更が必要な床面積の基準は200平方メートル以上に変更となった。
--そこで村田さんが担当されることに?
村田:はい。私はプロパティマネジメント部に所属して、主に賃貸物件の営業や管理を行ってきました。
ハイツ白鷺などのコレクティブハウスも担当しています。
賃貸以外の物件の活用なども行っており、私が担当することになったんです。
レンタルスペースは会社としてもはじめての取り組みですが、実は自分で物件のプロデュースをすることもはじめてでした。
古いものに惹かれる
-- 新しい挑戦ですね。村田さんは入社前はどういうことをされていたのでしょうか?
村田:もともとは建築が専門だったんです。
ところが、次第に建築よりもまちづくりに興味が出てきました。
そこで、まちづくりに関わる会社に就職して、都市計画に携わっていました。
ところが仕事を進めるうちに、古いものを壊して新しいものを作り続けるやり方に違和感が出てきてしまいました。
大学時代から古い建物や町が好きだったんです。
エイジングが好きで、携帯ですら、キズが付くのは気にならないので裸で使う派です。
そのせいで、会社の携帯もキズだらけになっちゃっているんですが(笑)。
-- 若い頃から古いものがお好きだったんですね。
村田:ええ。そこで、古いものを活かしながら、お金も生んでいる会社を探していたところ、八清を見つけたんです。
歴史的な街並みは全国にたくさんありますが、観光客向けの、どこかハリボテのように見える場所もあります。
その点、京都は生活感があって、本物っぽいところが気に入っています。
嫌がる人もいるかも知れませんが、私は軒先に洗濯物が干してあるのが好きなんですよ(笑)。
古い町家を改修する難しさ
-- 古い町家を活かすのは八清の特徴ですもんね。今回ははじめてプロデュースされたということですが、プロジェクトは順調に進みましたか?
村田:やはりいろいろと苦労はありました(笑)。
たとえば、建物の中に古い井戸が見つかったのですが、これを埋めるには「埋井祭(まいいさい)」という儀式を行わなくてはいけません。
それを知らずにいたら、ある時たまたまやってきた社内の人間が、「この井戸どうするの?」と言って、慌てて埋井祭を手配したんです。
-- それは大変でしたね。
村田:はい。また、ヨリアイマチヤのある修徳学区では、建物を建てたり改築する際には、地元の「修徳景観づくり協議会」との意見交換を行わなくてはならないんです。
ところが、そのことを社内の誰も知らなかったため、工事が1ヶ月止まってしまったんです。
家を売って終わり、ではなく、これからここでなりわいをさせてもらうわけですから、地元に何度も足を運んで準備を進めていきました。
建物のハード面だけではなく、レンタルスペースを運営していくための設備や予約システムなど、ソフト面の準備も同時に行わなければならなかったのは大変でしたね。
レンタルスペースを学ぶ
-- 八清にとっても、村田さんにとっても、新しい挑戦だったわけですね。レンタルスペースには詳しかったんですか?
村田:いえ、実は最初はあまり知らなかったんです。
そこで、京都市内の既存のレンタルスペースさんを見学させていただいたりしているうちに、「こんな用途もあるのか」と思うようになりました。
-- どんな使われ方をしていたんですか?
村田:会議室利用だけでなく、有名なチョコレートメーカーがパーティーを開いたり、大学教授の就任パーティー、結婚式の2次会などにも使われているんです。
意外なニーズがあることが分かり、これから引き出していきたいです。
-- 他のスペースと比べて、ヨリアイマチヤにはどのような特徴がありますか?
村田:京都には他にも、もやし町家さんや町家スタジオさん、らくたびさん、be京都さんなど、町家を使ったレンタルスペースがいくつかあります。
それらと比べたヨリアイマチヤの特徴は、まず、全体的にかなり大きな京町家であることです。
さらに、大型モニターや床暖房、机や椅子などの設備が完備されている点です。
大空間にこだわったヨリアイマチヤ
-- 建物の中について詳しく教えてください。1階でこだわったポイントはどこでしょうか?
村田:空間を大きく取ることにこだわりました。木造なので柱などが入ってしまいがちなのですが、建物の強さとバランスを取りながら、できるだけ広い空間になるよう工夫しました。
部屋と部屋の間に垂れ壁(梁下から垂れ下がるような壁)があったのですが、これを取り除くことで開放感が出ました。
本当は、幅90cmある耐力壁も幅60cmにしたかったのですが、そこまでは構造上難しかったですね(笑)。
-- それほど大きな空間にこだわられたんですね。1階は何人くらい入りますか?
村田:最大40人ほどです。3間の和室を、縦に使うのが標準的な想定の使い方です。
縦長の配置になりますが、マイクもありますし、2枚の大型モニターに同時に資料を表示できますので、後部からも話を聞いたり、画面を見ることができます。セミナーや研修に利用できます。
さらに、キッチンもありますので、飲食を提供するイベントにも対応可能です。
「和」と「洋」を融合させた空間
-- 2階はどんな特徴がありますか?
村田:1階の和風の空間に対して、2階には「洋」の要素を取り入れました。
京町家ですので、もちろん「和」が基本ですが、全てが「和」だけだと面白くないと思い、2階は少し遊ばせてもらいました。
フローリング敷きの床や、洋風の家具を使い、「和」と「洋」を融合させています。
-- 1階とはまた違ったモダンな空間になっていますね。襖の絵も面白いです。
村田:この絵にはかなりこだわりました。
MAISさんという、滋賀県在住のアーティストさんに制作をお願いしたんです。
彼女が改修前の建物に入った時に、インスピレーションが湧いたそうで、それを絵に落とし込んだそうです。
実は私もまだ全部見つけられていないのですが、8枚ある菊の絵の中それぞれに、女性のモチーフが隠されているそうです。
-- ぱっと見ても分からないですが、ゆっくり探してみたくなりますね。ヨリアイマチヤを印象付けるビジュアルになっています。
村田:町家のレンタルスペースはすでにいくつもありますし、何か印象に残るものにしたかったので、そう言ってもらえると救われる気持ちです(笑)。
この絵を入れるために、古い建具を再利用したりして、頑張って他の予算を削ったんです。
-- そこまでこだわられていたんですね。そして、照明も特徴的です。
村田:こちらは設計士さんのアイデアです。
棒状のLEDライトを組み合わせて作られています。
最初は「暗くないかな?」と思っていたのですが、実際に使ってみると思った以上に明るく柔らかい光になって驚いています。
設計士さんは「ライトセーバー」と呼んでいましたが(笑)。
-- スターウォーズですね(笑)。フローリングの部屋の奥は和室ですね。
2階の奥は茶室になっています。お茶会や、着物の着付け、撮影にも使っていただけます。
キャッチコピーは「いつもとちゃうのもよろしいな」
-- そんなヨリアイマチヤを、どんな風に使ってもらいたいですか?
村田:ヨリアイマチヤのキャッチコピーは「いつもとちゃうのもよろしいな」です。
普段、貸会議室を使ってセミナーや説明会を行われている方も、たまには趣向を変えて町家を使ってみて欲しいです。
経営合宿など、いつもとは違った場所で話がしたい方にもおすすめです。きっと、新しい視点の意見が出ると思います。-- そうですね。通常のオフィスビルとは一味違った発想が出そうです。
村田:合宿などで宿泊を伴う際には、SUKI 1038や凛葩、京宿家など、町家の宿泊施設もありますので、合わせて検討してみてください。
写真:suki1038 高台寺2階
-- 京都といえば町家。昼も夜も町家で過ごせたら、京都ならではの体験ができそうですね。これからどんな利用がされていくのか、楽しみになりました。村田さん、ありがとうございました。
村田:ありがとうございました。
さて、京都市内の便利な場所にある、大型町家のレンタルスペース「ヨリアイマチヤ」。
ぜひ一度使ってみたくなり、筆者が関わる「UNKNOWN KYOTO」プロジェクトのイベントで早速使わせてもらいました。
おかげさまでイベントは大成功!参加者の皆さんから「また来たい」という声を多数いただきました。
当日の参加者は約25名。2階でイベントを行い、1階でカレーを調理。前半と後半の間のブレイクタイムに、1階に降りてカレーを食べてもらう、という設定でした。
2階のフローリングスペースをL字型に使い、角に置いたモニターを登壇者が囲む配置。このように配置することで、すべての参加者から登壇者の顔や資料が見える配置となりました。
登壇者と参加者の距離が近く、マイクは要りませんでした。全員が肉声で話すことで、参加者からも対等な意見が出るなど、一体感のある会にできました。
2階の和洋室は、天井が高く、窓に接しているため明るい雰囲気も魅力です。
1階でカレーを振る舞ったブレイクタイムは、場所を変えることで席順が変わり、新たなコミュニケーションが生まれました。
2階でイベントを行い、1階でブレイク。10〜25人ほどの小規模でカジュアルなイベントでは、おすすめの設定です。
イベントや会議、セミナー、合宿など、使い方が広がる京町家のレンタルスペース「ヨリアイマチヤ」。
京都の中心部にできた、古くて新しい空間。みなさんはどんな風に使ってみたいですか?
ヨリアイマチヤについて
住所:京都市下京区大堀町491(地下鉄「五条」駅徒歩約2分)
利用時間:9:00〜21:00まで
料金:1時間6,000円〜(2019年8月31日まで半額キャンペーン実施中)
利用方法:予約受付フォームから予約
予約・詳しい情報は、ヨリアイマチヤホームページをご覧ください。
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