まちづくりやリノベーションに興味のある人であればもはや知らぬ人はいない(たぶん)、そんなイベントがあります。
その名も「リノベーションスクール」。
2011年に北九州で初めて開催されたこのイベントは、いまや全国に広がり、それぞれのまちで具体的にリノベーションの事例を生み出し続けています。
ただし、リノベーションスクールが端的に「リノベーション」を謳う他のイベントと異なるところは、単に建物のリノベーション事例を生み出すところにはなく、そこには事業がセットとなっています。
むしろ、事業を生み出すことを通じて、建物のリノベーションを進めていくということにあるのです。
さらに面白いところは、そうして作り上げた事業が一過性のもので終わらず継続していけるようサポートし、さらにそうしたリノベーションの流れを促進させる仕組み自体を構築してくという全体的な流れも生み出しています。
そうした事業を創出し、継続していく存在のことをリノベーションスクール界隈では「家守」と呼んでいます。
少し前置きが長くなりましたが、今回はそのリノベーションスクールの派生的なイベントとして「リノベーションまちづくりサミット2022@沼津」(リノベーションサミットとしては3年ぶり)が開催されるとのことだったので足を運んでみました。
参考サイト
富士山がキレイなまち沼津
みなさんは沼津というまちをご存知でしょうか。
このまちは、静岡県東部、伊豆半島の西海岸の付け根くらいの場所に位置し、海、山、川がまちのすぐそばにあって自然豊かであり、東京近郊へのアクセスもいい、そして何と言っても富士山がキレイに見えるという非常に好条件が揃ったまちです。
余談となりますが、僕は富士という沼津の西隣に位置するまちで生まれ育ちました。
子どもの頃から沼津は近場で最も栄えているまちという印象がありました。
ただその反面、やんちゃな輩も多く、ちょっと危険なまちという印象もあり、子どもだけで行くのは少し躊躇する場所だった記憶があります。
そんな沼津でリノベーションの動きが盛んだという噂を前々から聞いており、具体的にどういった動きがあるのか非常に楽しみでもありました。
現場の声が聞けるリアルな座学
リノベーションスクールが実技だとすれば、本イベントは座学です。
ただし、座学といっても侮るなかれ。
そこには各地のリノベーション実践者が登壇し、現場のリアルタイムの声や想いを聴き、感じることができる非常にリアルな座学なのです。
"リノベーション"という言葉自体はいまや使い古された感も出てきつつあるのが正直なところですが、実際の現場の動きは常に新しいものを生み出し続けています。
今回のイベントはその全国的な事例とともに、その根底に横たわる"リノベーション"に対する思想哲学的な部分までを網羅したイベントだったと思います。
今回のイベントは2日間(オプションツアーを含めると3日間)に渡り開催され、それぞれにテーマを与えられた10のトークセッションが開かれ、計47名にもおよぶ登壇者(モデレーター含む)がそれぞれの実践を語りました。
また、本イベントの前後にはオプションツアーが企画され、沼津のまちでのリノベーションの実践例を実際に見に行くことができました。
ツアーの案内も実際にそれを手掛けられた方々が行い、実際の現場を見ながら話を聞くのは非常に面白いものがあります。
1日目のイベント前に参加させて頂いたオプションツアーは【川辺コース】
まち中の遊休不動産の利活用はもちろんのこと、沼津のまちにはほぼど真ん中に狩野川という一級河川が流れており、この資源をまちの営みの中でどう有効活用できるのかという取り組みの実践例を見せて頂きました。
狩野川の両岸にある階段堤では、一部区画を「かのがわ風のテラス」と銘打ち、BBQやカヤック体験、ライブステージなどで使用できるよう規制緩和がされ、民間事業者が管理していたりします。
また、日常的にもテーブルや椅子が設置され、食事や休憩で使用することができるようになっており、実際にごく普通に使用されている光景が見られました。
かのがわ風のテラス。
温暖な気候なので晴れた日は川辺が気持ちがいい。
また、ここからすぐ近くにあり導線的にも繋がりのある中央公園では、週末に『週末の沼津』というフリーマーケットを開催しており、公共空間の利活用が進んでいる印象を受けました。
商店街の中にもコーヒーショップ、チャレンジショップ、ダンススクール、デザインセンター&コワーキングスペースなどリノベーションによる様々な物件の利活用が見られ、駅前には今秋また新しくブリュワリーバー(醸造所兼バー)がオープンするということで非常に楽しみです。
古ビル1階の元靴屋さんをコーヒードリップにリノベーション。
ビルの奥は今でも雨漏りしているそう。
駅から商店街を抜けて公園、川をつなぐ。駅から中央公園を抜けてかのがわ風のテラスまで徒歩約10分。
「風景をつなげていくこと」という沼津の家守会社である一般社団法人lanescapeさんの理念が体現したような事業と実践例ではないでしょうか。
実は、今回のイベント1日目の終了後はパーティが開催され、この「かのがわ風のテラス」でBBQでした。まち中にも関わらず、水辺の広い空間でBBQができるのはほんとに気持ちいいですね!
かのがわ風のテラス夜ver.川辺をこんな風に利用できるのは最高ですね!
なんと「かのがわ風のテラス」の隣には、沼津醸造所があり、クラフトジンも手に入ります。
また、歩いてすぐの場所に沼津の銘酒「白隠正宗」が手に入る酒屋さんもあります。
そして、まち中にはあちこちにクラフトビールのブリュワリー兼バーが出来つつあります。
最高かよ。
そもそもリノベーションまちづくりにとって建物のリノベーションは目的ではなく手段です。
空家を減らすという意味では建物のリノベーションによる利活用は重要なことですが、暮らしのためのまちづくりにとってそれはマストではありません。
そのため、もともとリノベーションする対象は建物に限らないというのは至極当然なのかも知れません。
参考サイト
いよいよイベントへ
閑話休題
ようやく本命のイベント「リノベーションまちづくりサミット2022@沼津」。
「沼津ラクーン」という駅前ビルで開催されたのですが、会場自体が面白く、ビルの空きフロアがテナントが入るまでの間イベントスペースとして利活用されているよう。
イベント会場。
コンクリートむき出しでリノベーションイベントの会場として面白い。
会場自体がリノベーション案件みたいな。
今回のサミットはすべてのトークセッションに「〇〇が未来を照らす」という共通テーマがあり、セッション毎にさらに〇〇に入る詳細なテーマが設定される形となっていました。
具体的に〇〇に入るテーマは下記。
- 越境する教育と福祉
- 大家と家守の豊かな関係
- 文化を作り出すローカルディベロッパー
- 企業と地域の関係の進化
- Z世代のまちづくり
- 静岡の静かな革命
- 商店街の再定義
- 新しい村づくり
- 食からつくる地域経済圏
- 民間目線の公民連携
気になるテーマが勢揃い。
同じ時間に2つのセッションが開催されるので、どう頑張っても半分は参加することができず。
選択に悩んだ結果、選んだのは下記。
- 越境する教育と福祉
- 企業と地域の関係の進化
- Z世代のまちづくり
- 商店街の再定義
- 民間目線の公民連携
セッション毎、全国各地の現場での実践者が複数名登壇し、モデレーターがうまく気になる話を引き出していきます。
当然のごとく、まったく時間が足らんという感じの濃密な内容だったわけですが、その内容は実践論ではなく、各登壇者の思想的な部分の色が濃かったのが他の類似イベントとはまったく異なるものだったと思いました。
印象的だったのは、ほぼすべての登壇者に共通して、
「頑張らない、頑張りすぎない」
「ギラギラではなくワクワク」
「対峙しない、たたかわない」
といった感じの言葉が語られ、各登壇者が実際にそういう雰囲気を纏っていたことでした。
また、
「共同体ではなく共異体」
「まちづくりではなく暮らしづくり」
「まちからの解放」
「帰属しない、複数帰属、出入り自由」
「中心人物をつくらない」
などの言葉も語られ、これまでの"まちづくり"的な文脈ではおよそ聞かない考え方や在り方だったのも非常に面白いと思いました。
個人的な印象として、これまでの"まちづくり"はまちの課題解決や活性化のために熱いパワーのある中心人物が周りのいろんな人巻き込みながら"だれかのために"進めていくという感じだったものが、登壇者の方々の実践は、自分(たち)の暮らしの延長として、その時々の自分(たち)ないしは自分(たち)周囲のニーズに応じて、その時々の周囲にいるメンバーでまずは"自分(たち)のために"ワクワクするものを作っていく、そういったものになってきているのではないかと感じました。
いわゆる"まちづくり"と言われる事業の現場で活動している方々の多くが"まちづくり"という言葉に違和感がある、自分たちのやっていることは"まちづくり"ではない、と言うというのはよく聞くあるある話ですが、その理由の一端がこうした考え方にあるのではないかと思います。
ちょっと話は変わりますが、「越境する教育と福祉」がテーマのセッションでは、登壇予定だった「はっぴーの家ろっけん」(一応、介護付き住宅)の首藤さんが急遽入居されていた方が亡くなられたということで、オンライン参加になったのですが、手作りお通夜の準備の様子をオンライン中継しながら話をするという類を見ない登壇?の仕方だったこと。
まさに現場の空気をリアルに感じることができ、語る言葉のもつ説得力が段違いでした。
リアルタイムで営みを見せながらのオンライン登壇。
今回のイベントでふと思ったのは、"リノベーション"というある種使い古された言葉それ自体、またリノベーションまちづくりという取り組み自体がリノベーションされてきているのだということでした。
そもそもリノベーションという言葉は簡潔には建物の改修を指す言葉として広まったのが最初かと思いますが、リノベーションという言葉自体の本来的な意味は改修、革新といった意味合いでその対象は建物に限りません。
そうした広義的な意味合いでリノベーションまちづくりの価値観、思想といった根底のものから、事業(ビジネスモデル)や組織といった具体的なものまで、様々な概念や定義自体がリノベーションされてきているということを感じました。
リノベーションスクールを運営するリノベリング代表の清水さんは、これまで一度も歳の差というものを感じたことはなかったが、今回はじめて歳の差というものを感じたという旨のことを仰っていました。
がしかし、リノベーションまちづくり事例のポータルサイトの名前は「rerererenovation!」。
であることはもはやこうした再帰的な事象まですでに織り込み済みなのかも知れないなとも思ったりします。
参考サイト
最終日のオプションツアー
イベント終了後の3日目。最後のオプションツアーとして【海辺コース】に参加しました。
戸田のリノベーションされたゲストハウスTagoreやコーヒー焙煎所などいくつかのリノベーション事例を見て回りましたが、その中でも特に印象的だったのがThe Old Bus。
もともとはオリエンタル急行風に改造し横浜でバーとして運営されていた大型バスだったそうですが、閉鎖しなければならずスクラップするしかないというぎりぎりの状況で現在のオーナーがこれを失くしたくないと何とか引き取って沼津に移動し、予約制のバーとして営業を再開したとのことでした。
その過程も非常にあれこれとあったそうで、いろいろと話を聞かせて頂きました。
海辺に佇むOld Bus。バスの中に入ると海に浮かんでいるみたい。
参考サイト
沼津市のリノベーションまちづくり
今回、イベントの舞台となった沼津市では2016年前後から「リノベーションまちづくり」に取り組み始め、現在までおおよそ60ものリノベーション事例を創出してきたそうです。
そうして生まれた事例がいまも数多く継続し、また新たな事例を生み出し続ける。沼津市ではそうしたリノベーションまちづくりのプラットフォームがしっかりとまちに根付いているということなのかも知れません。
そのまちにとって大切なものを、利活用してそのまちの暮らしの中に溶け込ませていく。
今回のツアーではまさにそんな実践例を見せて頂きました。
参考サイト
最も印象に残ったこと
最後に、いろいろと印象的だったことを書き綴ってきましたが、今回イベントの最も印象的だったことは、参加者の半数が公務員だったということでした。そして建築に関わる方は多少いましたが、不動産に関わる方はほとんど見られませんでした。
遊休不動産の利活用を主題とするイベントに不動産界隈の人間が参加しないという姿に、大きな分断があるのではないかと感じた次第です。
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