せっかくの機会なので、関西から少し離れた宮城県へ東北の古建物とまちづくりに携われる地方企業見学に行ってきました。
東北の古民家を学べる「ふるさと村」
近年はリノベーションして再利用されるなど、日本人から外国人まで人気が高まっている古民家。
石やレンガで作られた欧米の西洋建築とは違い、木造のものがほとんどですが、日本の気候や風土に合わせて、昔からの匠の知恵と技術の結晶とも言われます。
しかし南北に細長い日本は緯度の差が大きいため、北と南では気候が大きく異なります。
それぞれの地理条件に合わせて建てられた古民家の構造や意匠も当然に変わるだろう...と思いつつ、今回は東北の古民家の勉強として宮城県にある「国営みちのく杜の湖畔公園・ふるさと村」に行ってきました。
(訪れたのは良い天気に恵まれた10月末、コキアの紅葉はちょうど見頃。)
東北随一の国営公園であるみちのく杜の湖畔公園は、蔵王山麓に広がる釜房湖畔に位置し、南東北の主要都市である仙台市、山形市、福島市からもアクセスしやすいです。
豊かな水と緑に囲まれた広大な敷地では、東北の自然や文化が体験でき、四季折々のお花が楽しめるスポットとして年間を通して多くの人が訪れます。
今回の目的地はみちのく杜の湖畔公園の中にある東北6県を代表する古民家を集めた「ふるさと村」です。
ふるさと村に入ったとたん、「スケールが違う!」と思わず言ってしまうほどの圧倒的なオーラ。
仕事でよく京都の町家や古民家を巡りますが、まちに軒を連ねる京町家は間口が狭くて奥行きの深いものが多いですので、このような大規模な古民家に出会うことはなかなかないですね。
ふるさと村は、江戸時代末期から明治時代の頃に建てられた8棟の古民家は東北6県から移築され、田や畑、流れ、道ばたの石碑などによって昔の東北のふるさとの農村風景を演出されています。
8棟の古民家はそれぞれ特色がありますが、茅葺屋根を取り入れていることは共通点です。
その中で豪雪地帯の青森ならではの急勾配屋根は大きな特徴です。
他には土間の入口の前にある長い出しひさしなど、雪対策として生み出した意匠も青森の古民家の特徴だそうです。
(強い風と雪が吹きつける厳しい冬がある地域に建てられた「津軽の家」。
雪が降り積もる時期にも出入りがしやすいようになる長い出しひさしは豪雪地帯の古民家の特徴の一つです。)
同じ豪雪地帯である秋田市に建てられた「本荘由利の家」は両中門造りという家の形で、母屋から二つの出入り口が突き出しています。
雪が部屋に吹き込まないようにすること、また来客者が雪をはらうスペースとしての役割もあると言われます。
(コの字の形になっている両中門造りの「本荘由利の家」。
今は古民家カフェとしても営業されています。)
このような厳しい気候を乗り越えるための造りとなっている東北の古民家は、当時の人々の暮らしも反映されています。
京都でよく見かける商人の町家とは違って、昔の東北では農家が多かったようです。
野菜など農作物を広げ保存をするための作業をしたり、台所があって炊事をしたりと様々な用途に使われていた広い土間が付いているのはほぼ当たり前のようです。
(「津軽の家」のだいどこ。
炉が設けられ、煮炊きや食事など、家族の日常の居間としても使われます。)
(「月山山麓の家」。
こちらの屋根は、武者のかぶった兜の姿に似ていることから「兜造り」と呼ばれています。
小さな家に見えますが、実は1階以外中二階、「ずし」、「上ずし」も含まれる4階建ての多層民家です。)
(「月山山麓の家」に住んでいた家主は農業をしながら養蚕を行っていましたので、こちらの上座敷(かみざしき)は養蚕の場としても使われたようです。)
今回は独特の建築様式を誇る古民家を見学でき、上質な造りで規模が大きい建物の美しさはもちろん、その当時の建築技術や文化など様々な歴史と情報がたくさん詰まっているため、日本の昔の人々の暮らしの勉強にもなりました。
みちのく杜の湖畔公園では、昔からの民家の美しさと、青空や紅葉など自然の美しさが相まった風景も楽しめますので建築と自然が好きな方にはぜひおすすめしたいです!
みちのく杜の湖畔公園 ふるさと村
宮城県柴田郡川崎町大字小野字二本松53-9(みちのく公園管理センター)
廃校校舎の活用施設「森の美術館」
みちのく公園から離れて、田んぼ道を通って車で15分ほどの距離にある「NPO法人森の美術館」へと向かいました。
宮城県川崎町で廃校になった旧川崎小学校腹帯分校の木造校舎を拠点とし、昨年の夏ごろに活動を開始された施設です。
(夕方近くに到着しましたので外が暗くなり始めましたが、青色の小さな校舎は可愛くて目を引く。)
海外出身の筆者は日本で学生生活を送る経験がなかったので、今回の見学はすごく楽しみにしていました。
かつての校庭に車を止めて、元気よく遊ぶ子どもたちの声の中に「こんにちは」と爽やかに挨拶してくれたのは、理事長の木ノ瀬千晶さんです。
約4年前に川崎町に移住してきた木ノ瀬さんは、一児の母で現在染色家としも活動されています。
さっそく「森の美術館」について木ノ瀬さんにお話を伺いました。
「このまちに来たとき染物の場所が欲しかったので、同じく地域活動の場所を探す仲間たちが集まり、巡り合ったのはこちらの廃校校舎でした。」
同じ志を持つ仲間たちの活動の場。
それがきっかけですね!
(館内の廊下。学校時代の面影が残っていて、電球色の照明、青と白の壁と木目の床の組み合わせで暖かくてどこか懐かしい雰囲気。
心を癒す空間となっています。)
この小さな学校は廃校してからもう30年以上経ちます。
木ノ瀬さんたちが借りられるまでには、ある画家さんのアトリエ兼ギャラリーとして使われていたようです。
施設の名前、「森の美術館」もそこから引き継いだものです。
今の美術館の活動は大地を耕し、種をまくところから始めて、食料や繊維、染料などを自給して持続可能な暮らしについて考えることです。
不定期で様々な講座やワークショップ、コンサートや展示会などのイベントも行われています。
(館内に入ってすぐ左手にあるオーガニック食品の量り売り、フェアトレード商品などを扱うショップ「SOW(ソウ)」。
角に置いてあるのはピーナッツバターを作る機械。もちろん、こちらも量り売りです。
塩、砂糖、添加物を一切使用せず、ピーナッツ本来の味わいを楽しめます。)
(校長室だった部屋は、今は「衣の自給」ができる染織アトリエとして使われているようです。
草木染や正藍染め、布を織る体験ワークショップもこちらで開催されます。)
(森の美術館の副理事長 佐藤大史さん。
普段は美術館で植物染料を使って伝統の染色技法「正藍染」に取り組んでいます。)
(きれいな青に染められた麻の長襦袢。
京都からのお客様のオーダーメイド品のようです。)
先月(12月)は正藍染工房の初めての展示会を開催されました。
新しいイベント情報は随時SNSで発信されていますので、興味がある方はぜひフォローしてください。
ワイナリー・Fattoria AL FIORE(ファットリア・アル・フィオーレ)
木ノ瀬さんおすすめの小学校の体育館から改装されたワイナリー・Fattoria AL FIORE(ファットリア・アル・フィオーレ)にも行ってきました!
NPO法人森の美術館
宮城県柴田郡川崎町大字前川字松葉森山1-197
SOW
Fattoria AL FIORE
宮城県柴田郡川崎町大字支倉字塩沢9
地方企業が育ててきたコミュニティーとリノベ古民家住宅「Tateshita Common」
今回の研修のメイン目的の一つとして、地方企業に訪問したいと思っていました。
日本に来てから数年間ずっと京都で生活しているので、京都から離れた地域の方々とコミュニケーションが取れたらインスピレーションが得られるのではないかと思っていました。
できれば、そのまちや住民と繋がりがある方がベストです。
「宮城、まちづくり」をキーワードにたどり着いたのは、仙台市からほど近い岩沼市にある一級建築士事務所 株式会社L・P・Dさん。
(訪問当日温かく出迎えてくださった代表取締役の洞口文人さん。
後ろはL・P・Dさんが企画、設計、運営されている賃貸アパートapartment BEAVER。)
宮城県岩沼市生まれ、法政大学大学院建設工学専攻された洞口さんは、東京の建築設計事務所と仙台市のまちづくりの仕事を経て岩沼にUターンしました。
前職の経験を生かしながら、 同じく設計士である奥様と株式会社L・P・Dを創立し、今は公民連携事業やまちづくりなどさまざまな事業を手掛けています。
今回訪問したのは、仙台市から電車で20分ほどのまち・岩沼市館下にあるL・P・Dさんが企画・運営されている施設「Tateshita Common」。
築60年以上の古民家二世帯住宅「複合古民家実験住宅」と賃貸アパート「apartment BEAVER」で構成された小さなコミュニティです。
古民家とアパートが共有する庭はコモンスペースと交流の場とし、雑貨マルシェや映画上映会など、地域内外の方でも参加できるイベントも開催されています。
まず一番気になるのは、「複合古民家実験住宅」の名称です。古民家住宅なら珍しくないですが、なぜ「実験」でしょうか。
「弊社で設計した最初の住宅であり、何やっても全部実験ですね。
数年間を経って最近落ち着いてきましたが、今は自宅兼、母が運営している美容室として使っています。」
なるほど、二世帯住宅と職住一体のリノベーション古民家、京都にもよくあるパターンですね!
(耐震・断熱・防水の改装工事によって甦った古民家「複合古民家実験住宅」。
訪問当時は浴室とコミュニティーサウナの工事が進んでいるため敷地内に建材などが置かれていました。
やはり常に進化している「実験住宅」ですね。)
(立派な梁を表しにした天井がある1階のリビング。
もともとの収納や建具等をすべて撤去し、大きなLDKをとった現代的ライフスタイルに適した形になりました。)
では古民家リノベーションの第一号として、一番チャレンジしたことは何ですか?
「やはり断熱ですね。
昔の日本家屋は素材として魅力的ですが、断熱性・気密性が悪いので冬は寒いです。
改装し始めたのは約6年前ですが、当時には断熱の古民家はまだほとんどなかったです。」
試行錯誤を繰り返した結果、今は外断熱とし、屋根と床下にも同様に断熱材を入れているため寒い日でもペレットストーブ一台で二階まで十分暖まります。
(昔の天井裏はワークスペースに
大きなトップライトから光が降り注ぎ、開放感とこもり感を両立する心落ち着く空間。)
(既存の梁を上手に利用され、間にラグを敷くだけでおしゃれなリラックススペースに。
子どもが絵本を読んだりお昼寝をしたり、秘密基地としても使えそうです。)
他の人が作ったサークルに入るより自分が一から何かを創り出すことを楽しんでいる洞口さん。
自宅を実験し続ける理由をうかがうと
「設計事務所の仕事はお客様の資金でお客様の夢を叶えることも素晴らしいですが、でも自分たちは住み続けないとそれが良いか悪いかわからないですよね。
やはり自分たちのものでどんどん実験して、自分たちで住んでみたほうがお客様に本当におすすめできると思います。」
会話中にも仕事に対しての情熱とこだわりがずいぶん伝わってきました!
ではTateshita Commonの次のステップは?
「やはりこのエリアに住んでくれる人を増やしたいですね。
こちらは利便性がいい場所なので、仙台とか周りの地域から面白い人にたくさん来てほしいです。
まずは10ファミリーぐらいを集めて、コミュニティができれば、次は新しいおしゃれなカフェやシェアオフィスなど作ったり、コンテンツを増やしながらクリエイティブな人材をどんどん呼び込みたいです。」
今年9月に竣工したライフスタイル型アパート「apartment BEAVER」は、僅か2か月で3戸すべて入居済みとなりました。
コミュニティ作りとしていいスタートを切りました。
進化しつつあるTateshita Common、これからどんなコミュニティになるか楽しみですね。
Tateshita Common
宮城県岩沼市館下3丁目1-23
apartment BEAVER
ありがとうございました!
今回は江戸時代から建てられたかやぶきの造りの古民家をはじめ、古い校舎・民家を活用した施設まで見学させていただき、100年以上の時を越えて住民たちの古今の暮らしを少し覗いてきました。
昔の匠の知恵が凝縮された古民家がこれからも大切に受け継いでいかれることを願っています。
そして何より、歴史を引き継ぎ様々な活動を実践する人々の地域への思い。
人は宝なり。文化財よりまちへの熱い想いを持つ人こそ国の一番の財産だと実感しました。
温かく接してくれた宮城の皆さま、ありがとうございました!
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