私が出張研修に選んだ場所は金沢です。
京都とは似て非なる、古都のまち並みと伝統文化に触れる体験がしたいと考えて選びました。
金沢の伝統に触れる
一日目、夕方より京都駅から金沢駅までサンダーバードでの移動。
途中、車両トラブルで予定より遅く到着した金沢駅は、開いている店もまばらだった為、直ぐにホテルに入りました。
ホテルのある金沢駅西口は広々と整備され、夜のライトアップが綺麗でした。
二日目朝、箔一本店箔巧館にて予約していた金箔貼り体験に向かいました。
日本の金箔生産量98%以上を占める金沢。その歴史は約430年続くもので、伝統産業の体験はその地域の理解を深めるきっかけになると楽しみにしていました。
体験自体は、安易な金箔シールを小物に貼るようなものではなく、接着剤で金箔をしっかり貼っていく工程があり、想像していたより難しかったです。
体験スペースの他に、デジタルサイネージによる金箔の歴史や製造過程の展示、プロジェクションマッピングで映し出す前田利家の金箔の間など、最新技術と伝統文化の組み合わせで見所が多かったです。
カフェスペースで金箔ソフトを頂き、文字通りの豪華な体験になりました。
続いて向かったのは、ひがし茶屋街と主計町茶屋街。
主計茶屋街
綺麗な古都のまち並みで、京都と似ていると言われる事があります。
約400年前に前田家が金沢に入った際に、江戸幕府に対して文化振興をアピールする為に、京都や名古屋から文化を持ち込んだそうです。
しかし文化的背景としては、金沢は武士に対して京都では公家である為、同じ商人の町家でも文化の主体が異なり、客層も異なっていたと推測されます。
実際訪れてみると、類似点は多いものの、京都とは少し雰囲気が異なっているように感じました。
家屋の多くは総二階で大きく、連担した長屋構造ではありません。
ひがし茶屋街
サガリなど金沢独自の形状も見て取れて楽しかったです。
その後、茶屋街から歩いて近江町市場へ。
観光客がメインとなり市民の台所ではなくなってしまったと、地元の方が仰っていましたが、古くから活気のある商店街でした。
新鮮な魚介を昼食に頂き、とてもおいしかったです。
カニの解禁日が一週間後に迫る日程を選んでしまったことが、唯一の心残りとなってしまいました。
箔一本店箔巧館
新しい建築
昼食後訪れた先は、鈴木大拙館。
自然と調和された美しい谷口吉生氏設計の建築は、シンプルに徹底された、静かで落ち着いた空間でした。
そこに何があるかというより、そこで何と向き合うかとういう、禅の思想の為の建物でした。
そして近くの金沢21世紀美術館では、スイミング・プールやブルー・プラネット・スカイの体験型アート作品にも触れました。
五感で楽しめる展示が多く、まちに開かれた公園のような美術館をコンセプトに、まるびぃの愛称で親しまれる施設には、平日にも関わらず、多くの人で賑わっていました。
夕食をすませた後は、ホテル近くの金沢駅まで戻ってきて、改めて鼓門ともてなしドームを見てまわりました。
鼓の胴にある「調べ緒」をモチーフにした、螺旋状の迫力ある木造の柱は、伝統文化の能楽を身近に感じさせます。
その奥にあるドームの3019枚のガラスとアルミ立体トラスとスケルションの組み合わせによる「張弦材複合トラス構造」には目を見張りましたが、出発前の京都駅を少し思い出してしまいました。
今回は残念ながら見る事ができませんでしたが、積雪時の大屋根に浮かび上がるチドリ模様や、景観保持の為に不定期で駅前に鷹を放してハトを追いやる鷹匠の姿があるそうです。
ハトの糞が全くない綺麗な金沢駅には確かに世界で最も美しい駅の一つであり、傘だけに限らない「おもてなし」の根幹があるように思えました。
城下町としての金沢
野村家
三日目は、武家屋敷跡野村家から始まります。
こちらはインスタグラムなどでも人気の写真映えする庭があり、訪れるのが楽しみだった場所の一つでした。
実際訪れてみると、屋敷や庭はコンパクトでありながら、わかりやすい魅力と奥が深い造作で長時間居ても飽きない建物でした。
生茂る植栽で立体的な庭園と、池泉鑑賞式庭園で曲水が濡縁に迫り庇の中に入り込んだ中間領域、総檜造りの格天井や名絵師による建具など豪華な内装の上段の間や謁見の間。
庭園と建物が一体となっているのでどの角度から見ても絵になる事に驚きました。
引き算の美学とは対極のもので、全てのものが絶妙のバランスで集約された魅力がそこにあり、庭屋一如を感じました。
奥の石段を上った先にある、2階の不莫庵から見下ろす庭園と建物も、違った見え方をして面白かったです。
足軽資料館
近隣の長町の一角である足軽資料館では、階級社会でありながら立派な家屋での暮らしを垣間見る事ができ、武士文化を感じました。
武家屋敷跡がある長町からも歩いていける距離に、尾山神社という面白い神社があると聞いて行ってみました。
尾山神社
有名な場所にもかかわらず調べていなかったのですが、その面白さは一目瞭然でした。
尾山神社では和洋折衷の神門と和漢折衷の本殿、楽器をモチーフにしたという庭園は、創建の明治初期だけでなく、現代から見ても非常に前衛的なデザインで驚きました。
これだけ多彩な要素を持った建物は他に類を見ず、何にも囚われない自由な発想を融合させる技術が素晴らしかったです。
その後、金沢城公園から兼六園へ散策していきます。
金沢城では、橋爪門や五十間長屋など見学しましたが、その屋根は瓦ではなく鉛板を曲げて作る鉛瓦葺であった事に驚きました。
他には玉泉院丸庭園が印象的でした。
兼六園と比べると内庭としての性格が強いとされているそうですが、十分な規模を誇る大名庭園で、城内の高低差を活かした立体的な庭園に魅力がありました。
日本三名園の一つである、兼六園では広大な縮景はもちろんですが、施設内の成巽閣が素晴らしい建物でした。
大名書院造りと数奇屋風書院造りの二つの様式を持つ建造物には、色鮮やかな群青の間や庭園、杮葺きが施されています。
前述の野村家も同様でしたが、露地庭が茶室の軒の中に食い込んで作られているのが積雪地帯である加賀地方ならではの特徴だそうです。
最後に訪れたのは、金沢出身の建築士先生から薦めて頂いた、石川県立図書館に向かいました。
着工から3年を経て、金沢大学工学部跡地に2022年7月にオープンしたばかり。
ストックホルム市立図書館を彷彿させるような、円形の閲覧席が特徴的で、全体を見渡せる4層構造は壮大でした。
全ての知識がここに集まっているような雰囲気がある一方で、加賀五彩を取り入れたり、テーマ別の分類やブックリウムなど本との出会いを演出する展示工夫が随所にありました。
ブックリウム
また文化施設としての機能も充実しており、イベントスペース、こどもエリア、食文化やモノづくり体験スペース、文化やアートの展示、文化交流エリアが一図書館の枠組みを超えて、集える場所として成り立っています。
こんな施設が身近にあったらいいなと思いながら、市民の方が、雨や雪の日に一日中ここで過ごしたいと仰っている姿に共感できました。
「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるほど雨や雪の多い地域にも拘わらず、晴天に恵まれ、多くの施設や体験を通して、金沢の伝統と近代建築を堪能できました。
「金箔」や「兼六園の国内最古の噴水」、「尾山神社のステンドグラス」、「鼓門・もてなしドーム」をはじめ、金沢のまち全体に一貫して「古いものを大切にしながら、新しいものを独自の観点で取り入れていく」人々の変わらない思いが受け継がれていました。
次はカニのシーズン中に、雪の金沢を見に来たいと思います。
武家屋敷跡野村家
尾山神社
玉泉院丸庭園
成巽閣
石川県立図書館
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八清社員が日本各地へ興味が赴くままでかけ、見て、聞いて、普段の業務では得られない知見を広めてきましたのでレポートします。
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