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こんにちは。メディアデザイン部の広瀬です。

京町家や昭和の古い建築物で必ずと言っていいほどお目にかかる「タイル」。

もちろん耐水性・耐久性に優れた建材のひとつであることはいうまでもないですが、そこにあるだけでレトロでアンティークな雰囲気を作り出してしまう他にはない存在でもあります。

私は以前から古き良き時代を思い起こさせる小さなタイルに惹きつけられ、リノベーションした自宅の水回りの壁にも取り入れました。

そんな私がある日何気なくインスタグラムで目にした、山のような形をした一風変わった建物。

調べると、この建物が実はモザイクタイルの美術館であることを知り、これはぜひ見てみたい!という思いに駆り立てられ訪れることにしました。

多治見市とモザイクタイル

多治見市周辺は奈良時代より1300年の歴史がある焼き物、美濃焼の産地です。

焼き物の産地でタイルがつくられるようになったのは大正時代。

西洋から持ち込まれたレンガ造の建物からコンクリート造の建物が増えたこと、スペイン風邪の流行とともに一般家庭の衛生意識が高まり住宅にも取り入れられたこと、さらには関東大震災の発生により鉄骨や鉄筋コンクリート造の建物が増えるとともに床や壁などを保護する役目として取り入れられたこと、このような事情から日本国内でタイルの需要が一気に高まります。

そんな環境のなか多治見市笠原町で生まれたのが、磁器+釉薬のモザイクタイル。

それから昭和の高度経済成長期を経て岐阜県はモザイクタイル国内生産量日本一であり続けています。

地場産業だけに地域ぐるみで盛り上げようとタイルで飾られた公共物を街中でもちらほら目にしました。

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公民館の看板もタイル。

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保育園の外壁もタイルで可愛らしく描かれていました。


前置きが長くなりましたが、いざモザイクタイルミュージアムへ!

山なのか?建物なのか?!

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本当に町のなかに突如現れた山のような形の建造物。

その建物は住宅や商店が立ち並ぶなんてことのない町の一角、笠原中央公民館の隣にたたずんでいました。

目の前に立った時、私はうっすらと既視感を覚えました。

以前に訪れた滋賀県近江八幡市にある、たねやのラコリーナ近江八幡を思い出しました。

そう、どちらも藤森照信氏が設計を手掛ける自然に溶け込むような景観を作り出す代表的な建築物です。

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分厚い土壁をくりぬいたようなエントランス。

洞窟の中に入るような雰囲気がありました。

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この小山のような姿は、タイルの原材料である粘土を掘り出す山の形をイメージしていると知って猛烈に納得。

土壁には古いタイルや割れた陶器が点々と埋め込まれ、懐かしさとぬくもりを感じさせる雰囲気に包まれていました。

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1階にはモザイクタイルで敷き詰められた車が!子どもたちも大注目でした。

そもそもなぜタイルの美術館が建てられたのか?

ここ笠原町で生まれたモザイクタイルは戦後に地場産業として隆盛を極めます。

タイルは建築物が取り壊されると同時に割られてその役目を終えるはかないもの。

1995年ごろから地元の有志によりモザイクタイルの収集活動が行われ、20年かけて集められたタイルは貴重な資料となっていきます。

そのタイル収集の意義に共感して設計を引き受けたのが藤森照信氏。

2011年から5年がかりの2016年にモザイクタイルミュージアムとして開館したそうです。

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焼き物を焼く登り窯をイメージされたような洞窟のような階段を上って一気に4階へ。

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ちょっとしたところにもモザイクタイルがあしらわれています。

空とつながる圧巻の展示!

ほのぐらい洞窟のような階段を抜けた先の4階は、うって変わり一瞬目がくらむような明るい空間が広がっていました。

前述の有志の方々が集めた貴重なコレクションが展示される空間です!

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不思議でたまらなかったお山のてっぺんにこんな空間があったとは!

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ぽっかり空いた穴から空に向かって流れるような造形がとても不思議な「タイルのカーテン」。

日光が注ぎ眩しいくらいの白さの中に、色とりどりのモザイクタイルが散りばめられています。

どのタイルが好き?なんて子どもたちも珍しげに楽しそうに眺めていました。

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銭湯の壁面を飾っていたタイルの絵画や、一般家庭などにあったタイルの流し台や浴槽が展示されています。

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なんとここに「おくどさん」、つまり竈(かまど)が!

京町家の台所にあたる「ハシリ庭」では、流し台とともにタイルで作られたおくどさんもたびたび見かけます。

タイル製品のひとつとしてお目にかかれたことに嬉しさを覚えました。

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細かな手作業を想像させるタイル画、一つ一つのデザインも面白い!

4階を見終えたあとは3階へ。

3階はタイルの歴史や製造工程を紐解く展示がされていました。

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ちらちら見ていくと、大小さまざまなタイルが展示され、中には煉瓦や瓦もあります。

なぜ、煉瓦や瓦まで・・・?

不思議に思いながら学芸員の村山さんに、疑問をぶつけてみると興味深いお話を聞くことができました。

2022年はタイル名称統一100年目

村山さんのお話しによると、そもそも焼き物に端を発するタイルは、古くは紀元前のヨーロッパや中国の建築装飾としても存在し、各国の歴史的背景のなか特徴をもって発展してきた経緯があるとのことでした。

その中には、煉瓦(レンガ)も瓦(カワラ)も含まれる、つまり焼き物の建築装飾として多種多様に存在してきたということ。

日本国内でも建築物に焼き物の装飾を取り入れることが増える過程において、業界のなかでも呼び名が異なることで、注文や指示などを出す手間が煩雑になっていたそうです。

そのため、1922年に全国から業界関係者が集まり、「建物の表面を覆う薄板状のやきものを統一的に「タイル」と呼ぶ」と決議されたそうです。

そうすることで、屋根に置かれる焼き物は「瓦」、素焼きのものを「煉瓦」などのように自然と呼び分けが進んでいったようです。

焼き物の産地から必然的に生まれた「タイル」の歴史に感動を覚えました。

このように日本で「タイル」という名称が統一されてから、昨年2022年はちょうど100年目。

100周年を記念して、多治見市モザイクタイルミュージアムとINAXライブミュージアム、江戸東京たてもの園が共同して企画展が行われたり、展示やワークショップなどが行われています。

また村山さんのお話しでは、モザイクタイルミュージアムでは膨大に増えたタイルのデータベース化にも取り組んでおられるそう。

確かに、八清のリノベーションでも建材としてタイルの利用はたびたびあり、例えば昔のものを再現しようと同じようなタイルをネット上で探しますがなかなかほしいものにたどり着かない、と担当者の嘆きを聞いたことがあります。

これからますますそのデータベースに期待がかかりますね。

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見学を終え、ミュージアム前の広場に置かれていたモザイクタイルのベンチに腰掛け一休み。遠目にお山を眺め名残惜しさを感じながら後にしました。

多治見市モザイクタイルミュージアム

岐阜県多治見市笠原町2082-5

Webサイト

Instagram

タイル名称統一百周年

Webサイト

タイルシンク専門店を訪問

さて、次は同じくインスタグラムで目にして以来、ずっと気になっていたところへ。

モザイクタイルでつくるタイルシンクの製造販売を行っている「作善堂」(さぜんどう)さんを訪問しました。

古い京町家でもタイルでできた流し台によく出会います。

それらは色とりどりであったり、絵が描かれていたり、当時の流行を感じさせてくれる存在です。

このようなタイル流しの製造業者は、昭和の中頃まで笠原町だけでも50~60軒ほどあったそう。

しかし時代のながれとともに現在は数社まで減ってしまったそうです。

そんな中、数少ないタイル職人だったおじいさんの思いを受け継ぎ、すべて手作業でつくるタイルシンクの製造販売に取り組んでいるのが作善堂さんです。

色とりどりでデザインも目を引くタイルシンクをぜひ見てみたく、路地の奥の町家である自宅に取り入れたいという思いもあったので訪問が非常に楽しみでした。

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工房では造られていたのは外置き専用のモルタルシンク。

土台造りからはじまりタイルを貼り磨いていく、職人さんがひとつひとつ手づくりしていく工程です。

屋外に限らず屋内でも使用できるよう、防水加工が施されたライトシンクという商品もあり、サイズ展開も豊富でセミオーダーも受けられています。

オーダーだけでなく職人さんやスタッフさんが考えられたオリジナルデザインの商品もさまざまあり、カタログを見ているだけでも楽しくなります。

そして、タイル販売所にもお邪魔させていただき、社長である水野さんのお話を伺うこともできました。

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(左奥が水野社長)

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現在は国内だけでなく海外からも受注がたくさんあり、ネット通販がとてもにぎわっているそう。(重量があるので配送作業も大変ですね)

シンクや建材としての利用だけでなく、小さなモザイクタイルでモノづくりをする人も増えていて、パーツとして購入されていくことが多いのだとか。

モザイクタイルの新しい使い道ですね!

またタイルシンクをセミオーダーする人がこの販売所を訪れタイルを選ぶのだそうですが、なかなか決められない方が多く何度も何度も足を運ぶ方もおられるのだそうです。

ここに並んでいるものだけでもたくさんの種類があり、決められないのも頷けます。

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タイルの裏側を見れば、どこ製造かすぐにわかるそう。(確かに少しずつ違っています。)

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水野さんのお話しでは、現在流通するタイルは大量生産するために規格化されていて、窯の温度が均一に保てるようになり、ムラのような独特の味わいはあまり出ないそう。

手作りとの大きな違いですね。

このような状況のなか水野さんは、もっと個性のあるタイルを自ら造ろうと模索されているそうです。

一度に大量には作れないけれど、こだわりをもつ人たちに届くぐらいの量は作れるのではないかということ。

どこかで聞いたことのあるような話しだと思いました。

新建材で造られ規格化された新築より、古くても使える素材は活かして再生する京町家にこだわって仕事をする私たちと共通する感覚があるなぁと、思わず頭に浮かんできました。

そして、そもそも屋外用だったタイルシンクを屋内で使えるものにするべく、目地に使う塗料の研究に力を注がれてきたそうです。

せっかく防水性の高いタイルで仕上げても目地が水を吸って漏れてしまうと屋内では使えない。

長年この問題の解決方法を考えられ、とある防水塗装のメーカーさんと出会うことで改善策が得られたそうです。

住宅建材としてはなかなか使わない高価な塗料ということですが、これを施すことで室内での使用を実現することができたそうです。

一連のお話しを聞いていると、古きよきものを大切に再生・再現しながら新しいものへ進化・発展させるという点において、京町家とタイル、扱うものは違えど想いや志は近いものがあると感じずにはいられませんでした。

ぜひタイルシンクに興味のある方は、Webサイトをご覧くださいね。

作善堂(さぜんどう)

[事務所・タイル販売所]

Webサイト

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訪問を終えて

モザイクタイルの歴史や人の想いに触れる充実した旅でした。

タイルの深みを知ってますます愛着を持って接することができそうです。

4歳の次男もタイルという存在を理解したようで、帰ってきてからも、街中で建物の外壁に張られたタイルを見かけると「あれもタイル?」「これもタイル?」と聞いてくるようになりました笑

多治見市モザイクタイルミュージアムの村山さん、作善堂の水野さん、スタッフのみなさま、 子連れで伺ったにもかかわらず温かい目で見てくださったこと、また丁寧にご対応くださったこと、心から感謝いたします。