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「海辺のカフカ」で心惹かれた高松市

今年の出張研修はどこに行こうかな、といろいろ調べていた時に、ふと頭に浮かんだのが以前に読んだ村上春樹の小説「海辺のカフカ」で主人公が訪れるまち、高松市。

小説の中の高松市郊外にある図書館の描写に心惹かれていたので、施設が実際あるかと調べてみると、残念ながらその図書館は作者の創作によるものとのこと。

様々な施設のイメージを組み合わせて作ったのでは、という憶測があり、その憶測のひとつとして「イサム・ノグチ庭園美術館」という場所が高松市にあることを知りました。

イサム・ノグチといえば、八清でも写真撮影の際にたびたび見かける照明「Akariシリーズ」。

提灯をモチーフにした和紙のシェードが明かりを灯す様子は、町家のような古びた空間に置いた時にもすんなりと空間に馴染み、モダンな印象を与えます。

この照明の作者、イサム・ノグチが晩年にアトリエを構えたという牟礼(むれ)の土地を訪れてみたい、ということから高松への出張研修を決めました。

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瀬戸大橋を渡り高松へ、そして石のまち牟礼へ。

瀬戸大橋を車で何度か渡ったことはありますが、電車で渡るのは初めて。

景色は車で見た時の方が良いなと思いましたが、「海の上を電車で走っている」というのはとても非日常で、旅の楽しさをじわじわと感じました。

高松駅から路線バスを使い、牟礼で降りると、石を削り出した白い岩肌を見せている山々があり、そのふもとにまちが広がっていました。

美術館へと向かう道の途中には、庭石や墓石、石像などの加工をする工場が数多くあり、石の産地というのも納得の街並みの中を歩いて美術館へと向かいました。

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イサム・ノグチ庭園美術館

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イサム・ノグチ庭園美術館は、バス通りから歩いて10分ほどの山すそにありました。

山並みを背景にカーブを描く石垣と、まるで門のように立つ、二つの大きな石が目印です。

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敷地内の展示は撮影できなかったので、どこまでお伝えできるかわかりませんが、印象に残った展示について書きたいと思います。

カーブを描く石垣の中には、屋外に彫刻作品が並べられています。

石の作品をこれだけまとまった数を見たのは初めてで、その量の多さに驚きました。

作品は外の土の上に置かれており、光や雨風を受け、虫が作品にとまるなど、自然に溶け込むような展示。

子どもと一緒に作品を見ていると、スタッフの方が「"石"と"土"と"水"はともだちなんだよ」とイサム・ノグチの考え方を、子どもにもわかりやすいように教えてくださいました。

敷地の奥には、「展示蔵」と呼ばれる、酒蔵を移築して作られた空間があり、こちらにも作品が並べられています。

素朴なつくりの古い酒蔵の中は照明が控えめに灯り、大きく開かれた入口からの光を受けて作品が浮かび上がります。

特に圧巻だったのが、代表作とも言われる「エナジー・ヴォイド」という、高さ3.6mの大きさの黒石の作品。

ずっしりとした石の量感は確かにあるのに、見ていると浮遊感を感じるという不思議な感覚を覚えました。

敷地内には丸亀の豪商屋敷を移築した住居「イサム家」もありました。

室内を覗くとAkariシリーズの照明が灯り、古い屋敷の薄暗い空間を控えめに照らしていました。

建物の保護のため、外からの見学でしたが、窓から室内を見ると、土壁や柱、板張りの天井などは古い屋敷の風合いを活かした仕上げ。

床の一部を下げて土間敷きにしてある場所がありましたが、古い屋敷らしい意匠の中に少しモダンな要素が混じる空間。

洗練されたというよりもどこか落ち着く建物で、日本の伝統的な空間への敬意のようなものが感じられました。

イサム・ノグチ庭園美術館

香川県高松市牟礼町牟礼3519

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男木島ワーケーション体験

今回の研修のもう一つの目的は、ワーケーションを体験してみること。

ワーケーション出来る場所を高松市で調べると、瀬戸内海の男木島という小さな島にあるコワーキング施設を見つけました。

今年になって隣に宿泊施設がオープンし、宿泊者はコワーキング施設も使えるということだったので、宿泊も兼ねて滞在することを決めました。

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高松港からフェリーに乗ること40分。

瀬戸内の島々と青い海の眺めを楽しんでいると、あっという間に島に到着。

フェリーの着く港から島を見ると、斜面にびっしりと家が並んでいます。

その港には白い屋根が印象的な施設がありました。

これは「男木島の魂」と呼ばれるアート作品。

男木島は瀬戸内国際芸術祭に参加しており、島内に点在するアート作品のひとつです。

古い家々の並びと、真っ白な屋根を持つ建物が対比されていて、フェリーから見た島の景色を印象的なものにしています。

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ジャウメ・プレンサ「男木島の魂」

到着から宿のチェックインまでの時間、まずは島を散策することに。

もう一つの港の方にあるアート作品を目指して歩きました。

斜面に並ぶ家々の景色を船の上から見ましたが、島を歩いてみると、家の並んでいる道路はとても細く、一番広い通りでも車は軽自動車が1台通るのがやっと。

途中、作業車と宅配便のスクーターを見かけましたが、基本的に島内は徒歩での移動になるようです。

折れ曲がって続く細い坂道に子どもはとてもワクワクしたようで、大人よりも元気に先へと歩いてくれました。

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もう一つの港は漁港で、防波堤の上にアート作品「歩く方舟」がありました。

たくさん足が生えたキノコのような形の作品は、近くで見ても、遠くから眺めてもとてもユニーク。

堤防のそばには砂浜があり、浜辺にある流木や貝殻、何かの骨やキラキラ光るシーグラスを集めて、その周りに飾りつけをして子どもと遊び、ゆっくり浜辺で過ごしました。

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山口啓介「歩く方舟」

瀬戸内国際芸術祭

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コワーキングスペース「鍬と本」

島のコワーキングスペースは、フェリーの着く港から歩いてすぐの場所にありました。

路地にある、カラフルな板張りの塀が目印で、この塀も瀬戸内国際芸術祭のアート作品の一つです。

路地から門を入ると、右手にコワーキングスペース、左手が宿泊施設という配置。

敷地内に二つの施設があり、行き来しやすいような距離感になっています。

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眞壁陸二「男木島 路地壁画プロジェクト wallalley」

コワーキングスペースは、古民家を改装した落ち着いた雰囲気。

玄関を入ると、床を低くしたタイル敷きの土間がありました。ソファやデスク、大きめのモニターが置いてある部屋もあります。

訪れた時間に他の利用者は居なかったので、カードゲームで子どもを遊ばせつつ、持ってきたノートPCを広げてリモートワークを疑似体験。

子どもと一緒では、さすがに仕事に専念することは叶いませんでしたが、普段とは違う環境、海から吹く風を感じて、こんな場所で仕事が出来たらいいのになと思える施設でした。

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隣接した宿泊施設はリノベーションされており、明るくて居心地の良い空間。

夕飯と朝ごはんには、島で採れた海鮮や、近くで採れた果物など地元食材を使った料理を頂き、お腹いっぱいになりました。

そしてベランダからは、港と海の景色が一望できる景色。

瀬戸内海に沈む夕焼けをゆっくり眺めて一日が終わりました。

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鍬と本(くわとほん)

香川県高松市男木町142

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移住者の増えている男木島の魅力

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このコワーキング施設と宿泊施設「鍬と本」を運営している、福井大和さんにお話を伺いました。

福井さんは、NPO男木島生活研究所の代表をされており、これまでに瀬戸内国際芸術祭にもかかわっておられます。

コワーキング施設の運営は、香川県のIT推進の施策に乗って始められたそう。

働く環境を選ばないワーケーションが出来る人、IT関連の人に島に訪れてもらい、島を気に入れば移住者になってもらえれば、という狙いがありました。

また、NPO男木島生活研究所の代表として、移住したい人のサポートをされており、10年間で約90組が移住され、定住した人はその内50組以上居られるそうです。

定住された方にお子さんが生まれるなど、少しづつ移住の輪が広がっているというお話を聞きました。

島の小中学校も一時は閉鎖されていたそうですが、福井さんと奥様の順子さんが島内に働きかけ、協力を得ることで再開されました。

高松市内で不登校だった生徒が、島の中学に通うことで卒業できた、というような例もあり、現在は島外の高松市から男木島の中学校を選んで来てくれるようにもなっているそうです。

お話の中で特に興味深かったのが、瀬戸内国際芸術祭と島とのかかわりについて。

この芸術祭が開かれるまでは、観光の人が訪れるような島ではなかったそうで、芸術祭にかかわる中で、島の生活や当たり前の風景を外から島に来た人に褒めてもらえ、そのことが島の住民の自己肯定感を高めることになり、島民が芸術祭を面白がるようになったと言います。

それがあったからこそ、ここまで拡がって長く続けて来られたのでは、とおっしゃっていました。

この芸術祭は、インバウンド~コロナを経て、次の2025年の開催は再度盛り上がるのでは、と期待されているそうです。

コンセプトをどこに持って行くかを明確にして、国際的にも重要な芸術祭として認められるようになれば、という展望を聞かせてもらいました。

この島の人口はわずか144人(2023年8月現在)だそうで、その数を聞くと本当に小さな島だということがわかります。

そんな中で芸術祭が行われていたり、図書館があったり、ワーケーションが出来る施設が作られていたりと、住民自らの手で魅力的な島を作って行かれていて、そのエネルギーに驚かされました。

たまたま訪れた宿泊施設で、思いがけず男木島のまち作りに携わっている方にお話を聞いて、この島の見方がずいぶんと変わりました。

思い切ってお話を聞いてみて良かったです。

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チェックアウトの日には、福井さんの奥様、順子さんが男木島図書館の館長ということを伺ったので、図書館も案内頂きました。

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こちらも古民家をリノベーションされているのですが、なんと自分たちの手で工事を行ったとか。

手伝ってくれる人を募りながら、たくさんの人の手で図書館が作られていったそうで、改修の際に書かれたメモや改修中の写真などを興味深く見せてもらいました。

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男木図書館

香川県高松市男木町148−1

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最後に

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昔に読んだ小説の舞台だったことから研修先に選んだ高松市。

なかば思いつきのような研修でしたが、どこも行ってみて良かった場所ばかりでした。

電車、バス、フェリー、今回の研修の旅を思い返すと、移動中の乗物から見た何気ない風景も印象に残っているように思います。

思いつきだったからこそ、どんな風景が見られるだろう、こんな場所だとは知らなかった、というような偶然の出会いがより楽しめたのかもしれません。

インスピレーションも大事だな、と感じた今回の研修の旅。

ワーケーションでリフレッシュした頭で、思いつきも大事にしながら仕事に励もうと思いました。

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八清社員が日本各地へ興味が赴くままでかけ、見て、聞いて、普段の業務では得られない知見を広めてきましたのでレポートします。

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