こんにちは。メディアデザイン部でグローバルWeb制作を担当しているチョイです。
八清に入社して3年目となり、京都の古い建築やまち並みにもどんどん馴染んできました。
建築とまちづくりに興味を持ち始めたばかりの初心者ですが、日本以外の国ではどのようにこれらが扱われているのかがますます気になります。
その思いを持って、今回の研修先に選んだのは、ヨーロッパの古都であり、歴史的な建物だけでなくモダニズム建築も多く見られるイギリスのロンドンです。
今回のレポートでは、グローバルな視点から歴史的建築の見学やまち並みの観察、特にキングス・クロス地区での都市再生の視察を中心に、そして昔からの劇場の見学と独特なストリートカルチャーをお届けしたいと思います。
キングス・クロスでの都市再生視察
まず最初に訪れたのは、ロンドン中心部に位置するキングス・クロス・セントラル (King's Cross Central)地区です。
この地域は、近年大規模な再開発が行われ、ロンドンの新しいランドマークとして注目を集めています。
1852年に建築家ルイス・キュービットによって設計されたキングス・クロス駅(King's Cross Station)は、当時ヨーロッパで最も大きな単スパン建築で、現在はイギリス指定建造物1級に指定されています。
この周辺のエリアは、リージェント運河(Regent's Canal)を利用した水運の拠点であり、交通の要衝および鉄道のハブとして栄えた地域でした。
当時は石炭や穀物などさまざまな物資が運び込まれ、それらを保管するための施設や建物が建設されました。
しかし、第二次世界大戦後の鉄道貨物輸送の需要激減により、これらの貯蔵施設は次第に使われなくなり、長らく放置されていました。
80年代から90年代にかけて何度も再開発の課題として取り上げられましたが、実際にプロジェクトが始動したのは2000年代半ばでした。
駅舎の復元をはじめ、周辺地域を含む大規模な都市再開発事業が行われ、約2,000戸の新しい住宅、486,280平方メートル(5,234,000平方フィート)のオフィス、新しい道路も建設されました。
参照
▲ビジターセンターにある素敵なエリア模型
左から高級住宅「ガスホルダー」、商業施設「コール・ドロップス・ヤード」、超名門芸術大学セントラル・セント・マーチンズのキャンパスとなった「グラナリー・ビルディング」。
その他、GoogleやMetaなど大手テック企業のオフィスもあります。
現在では、イギリスの国指定建造物を含む20軒の歴史的建造物を巧みに保存・活用しつつ、モダンな商業施設や住宅が立ち並び、魅力的なエリアへと生まれ変わっています。
今回は、その中でも特に印象的だった建物をいくつかピックアップして紹介します。
▲かつて貨物や石炭を運搬するために開運したリージェント運河
現在は市民のくつろぎの場にもなっています。
後ろのモダン建築はあと少しで竣工するGoogleのロンドン本社。
1 グラナリー・ビルディング(Granary Building)
グラナリー・ビルディングは、かつて穀物を保管するための倉庫として使用されていました。
石炭や穀物などの物資が運び込まれ、馬や水力を利用したクレーンや回転台を使って鉄道トラックに積み込まれていました。
これにより、効率的に物資の積み下ろしが行われていました。
現在、この歴史的建物は、世界的に有名な芸術大学であるセントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins)の新しいキャンパスとして再生され、現代の教育と創造活動の場として活用されています。
両側にあった倉庫では、貨物が鉄道トラックに積み込まれたり降ろされたりしていました。
現在でも、建物の外には、古い金属製の鉄道の線路や回転台が残されており、その歴史を感じることができます。
2 コール・ドロップス・ヤード(Coal Drops Yard)
コール・ドロップス・ヤードは1850年代に建設され、イギリス北部から鉄道で運ばれてきた石炭を貯蔵する施設として使われていました。
近年では映画のセットやアーティストの拠点としても利用され、現在ではヘザウィックスタジオによって再設計され、ユニークな商業施設となっています。
石畳の通りとレンガのアーチを特徴とし、50以上の店舗、ギャラリー、レストランが立ち並び、ヴィクトリア朝の建築と現代的なデザインが融合しています。
特に注目すべきは、「キッシング・ルーフ(Kissing Roof)」とも呼ばれる特徴的な屋根のデザインです。
このデザインは倉庫の内側の既存切妻屋根を延長し、2つの高架橋を繋げて中庭を造るとともに、流れるような動線を作り出しています。
新しい自立構造に支えられたこの屋根は、互いに伸び合って接触し、浮遊する上階、大きな屋外スペース、そしてサイト全体の中心的な焦点を形成しています。
3 ガスホルダー(Gasholders)
ガスホルダー 8号は、キングス・クロスで象徴的なガスホルダーの中で最も大きなものでした。
高さ25メートルの独特なフレームは、16本の円筒形の鋳鉄柱で構成され、2層になっています。1850年代にロンドン最大のガス工場であるパンクラスガスワークスのために建設され、20世紀後半まで使用されていました。
▲ガスホルダーパークからマンションを見る
2011年、このガスホルダーは解体・修復されたあと、2013年に改めてキングス・クロスに戻され、リージェンツ運河の北岸にある新しい場所で再建されました。
現在、この場所は新しい公園「ガスホルダーパーク(Gasholder Park)」として生まれ変わりました。
隣接する他のガスホルダーのフレームも活用され、145戸の高級マンションに改装されました。
これらのマンションは、産業遺産に配慮しながらも新しく快適なデザインが施され、各ドラム内に中庭が設けられています。外観の機械的な特徴がインテリアデザインにも反映されており、鋼、真鍮、樹脂、木材、コンクリートなどの多様な素材が使われています。
▲マンションの入り口
相場を調べたところ、なんと2LDKの物件は約200万ポンド(約4億円)もするそうで、驚くほどの超高級マンションのようです。
キングス・クロス・セントラル地区は、歴史的な建築物を保存・修復し、現代のニーズに合わせた新しい用途を見つけ出しています。
古い建築物だけでなくモダンな建築物も数多く点在しており、その結果、新旧が調和した独特の景観が形成されています。
この地域は、歴史や文化を守りつつ、現代の都市生活に適応した空間を提供しています。
▲左:R7 by Duggan morris Architects 右:22 Handyside Street by Coffey Architects
▲左:S2 Handyside by Mossessian Architecture 右:Aga Khan Centre by Fumihiko Maki
ロイヤル・アルバート・ホールの見学ツアー
キングス・クロスから離れた後も、まちの中心部で歴史的建築の見学やまち並みを見ながら歩きました。
ロンドンにはバッキンガム宮殿、ウェストミンスター寺院、タワーブリッジなどのランドマークをはじめ、多くの歴史的建築物が存在します。
これらの建築物は、観光地としての価値だけでなく、ロンドンの歴史や文化を物語る重要な存在です。
私は観劇が好きなので、歴史のある劇場には特に興味があります。
今回はロイヤル・アルバート・ホールの見学ツアーに参加しました。
このツアーでは、ガイドの解説を聞きながら建物の中を見学し、普段コンサートに訪れる際にはなかなか入れない場所まで見ることができて、とても貴重な経験になりました。
ロイヤル・アルバート・ホールは、ヴィクトリア女王の夫君アルバート公の記念会堂として1871年に開館された壮麗な建物であり、世界的に有名なコンサートホールです。
ヴィクトリア朝の建築様式を代表するこのホールは、初めて目にしたとき、その壮大な構造に圧倒されました。
現在、クラシックからポップスまで様々な音楽のコンサートが開催されるほか、ボクシングやテニスなどのスポーツイベントも開催されます。
また、毎年夏に開催されている「BBCプロムナードコンサート(The Proms)」の会場としても有名です。
さらに、1991年には英国で初めての海外公演として大相撲が行われた歴史的な会場でもあります。
▲ツアーの様子
ツアーでは、ホールの外観や内部の豪華な装飾、歴史的なエピソードなどについて詳しく紹介されました。
▲イベント時
A Night of Championship Boxing in 2019
© Andy Paradise, courtesy of Royal Albert Hall
▲イベント時
Screening of Planet Earth II in 2018
© Andy Paradise, courtesy of Royal Albert Hall
例えば、ホールのドームは鉄製で、その設計や建設には当時の最新技術が用いられたこと。また、ロイヤル・アルバート・ホールが年間を通じて多くのコンサートやイベントを開催し、芸術と文化の発信地としての役割を果たしていることも説明されました。
ホールの内部に足を踏み入れると、まず目を引くのは壮大なアリーナ席です。
ガイドは、ホールの音響設計や、過去にここで演奏した著名なアーティストたちの逸話についても話してくれました。
特に、ホールの独特の円形デザインが音響にどのような影響を与えるかについての説明は非常に興味深かったです。
天井には、音響を改善するための「マッシュルーム」と呼ばれる85枚のガラス繊維製ディフューザーが吊り下げられています。
これらのディフューザーは、過去に問題となっていた過剰なエコーを解消するために設置されました。
新しい配置では、天井の中央部やステージの上および後方にマッシュルームの密度が高くなり、観客にとって音の質と即時性が向上しました。
全部で20席のある国王のプライベートボックス。
ガイドさんによると、このボックスは王室がいつでも利用できるようになっており、使用しない時は宮廷のスタッフにも開放されているそうです。
ツアーの最後には、ホールの歴史を物語る展示コーナーや記念品が並ぶショップも見学しました。
歴史的建築物としての魅力だけでなく、その中で繰り広げられる音楽や芸術の素晴らしさも実感できる貴重な体験でした。
古都だけでなく、ロンドンのストリートカルチャー
ロンドン市内の様々な地区を歩くと、各地域ごとに異なる雰囲気や歴史的背景を感じることができます。
例えば、サウスバンク地区では、現代的な建築とともに古い倉庫がアートギャラリー、美術館やレストランとして再利用されている姿を見ることができ、「古今融合」の都市景観を体感することができます。
そして、散策中に予定外のスポットとして見つけたのが、リーキ・ストリート(Leake Street)のグラフィティトンネルです。
このトンネルは、ウォータールー駅の近くに位置し、ストリートアートの聖地として知られています。
トンネル内部は壁一面がグラフィティアートで埋め尽くされており、ロンドンのアートとクリエイティビティが溢れる姿に触れることができました。
予定にはなかったものの、この偶然の発見は今回の研修の旅に特に印象的な体験となりました。
リーキ・ストリートは、2008年にイギリスを拠点とする路上芸術家バンクシーによってシークレットイベントが開催され、その後グラフィティの聖地とも言えるストーリーアートのファンが必見のスポットとなりました。
現在ロンドンで唯一、ストリートアーティストが許可なく作品を描ける場所で、世界中から集まったアーティストたちが自由に創作活動を行い、様々なスタイルのアートが展示されています。
この場所はアートだけでなく、アートの創造過程そのものも体験できる貴重な場所です。
時にはアーティストたちが作品を制作する様子を見学することもできます。
また、グラフィティアートのイベントやフェスティバルが開催されることもあり、訪れるたびに新しい作品やサプライズが待っています。
リーキ・ストリートは、都市空間を活用してアートを表現し、その場で生まれる創造性と自由な発想が詰まった場所として、多くの人々に愛されています。
ロンドンのストリートアートシーンの中心地として、常に注目を集めています。
今回のロンドン出張研修では、都市再生と歴史的建築の活用について多くの学びを得ることができました。
キングス・クロスでの視察を通じて、歴史を守りながらも現代に適応させる重要性を再認識し、その思いは世界でも通用することを強く感じました。
また、ロンドンの歴史的建築や町並み、劇場での見学体験を通じて、都市が持つ多様な魅力を改めて実感できました。
ぜひロンドンのような都市再生の取り組みを参考にしながら、身近な地域の魅力も再発見してみたいと思います。
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