今回、出張研修先に選んだ三重県。
京都以外の伝統建築を見てみたいという思いでどこに行こうか迷っていた際、三重県に伝統建築群があるという事を知りこれは行ってみないと!ということで行先に選びました。
また、広大な土地を活かした新しい建築群もあるということを知り、色々と訪れる事にしました。
高速道路で1時間30分程。
京都からは近いけれどもあまり立ち寄る事が無く知らなかったのですが、あっという間に目的地へ。
子どもも大人もワクワクする老舗テーマパーク
1日目は、鈴鹿サーキットへ。
昭和37年に、日本で初めての本格的なレーシングコースとして誕生した鈴鹿サーキット。
誕生から約60年、日本のテーマパークとしては古い方になるようです。
ここもある意味、特殊な建築物、構造物、と言えるのではないでしょうか。
サーキットの他に遊園地、ホテル、レストランなど子どもから大人まで楽しめる、他にはない"ワクワク"に出会える、モビリティテーマパークとして有名です。
色々な乗り物に乗る体験は、真剣に向き合う表情を見ることができ、「こんな事出来るの!?」と思わず言いたくなるような子どもたちの成長を感じることができる『他にはない"ワクワク"』を家族で味わうことができました。
単なる遊園地ではなく、サーキットが軸となり、「自ら操縦する」に重点を置いた乗り物が多数ありました。
ライセンスを取得して乗ったり、タイムアタックなど競争したり、ここならではの特別な体験が「また来たい!」と思わせるワクワクに繋がり、体験・体感する事の大切さを実感しました。
併設のホテルに宿泊しました。
やはりサーキットのイメージを崩さない様な仕様となっており、最後まで楽しむことができました。
海外の方にも人気のようで、1/3ぐらいは外国人がいらっしゃった様に思います。
伝建地区 亀山市関宿
2日目は、今回の研修のキッカケでもある伝統建築群を見に亀山へ。
亀山市伝統的建造物群保存地区は、旧東海道五十三次の江戸日本橋から47番目の宿場町「関宿」です。
旧東海道のまち並みは、全長1.8km程あり、この地区内の建造物の半数は江戸・明治期に建てられたものです。
江戸・明治期の建物に加え、戦前までに建てられた伝統的要素をもつ木造建築物を含めると約7割もの建物が残っており、特に中心部には、は本陣・脇本陣・大規模な旅籠(はたご)が集中しています。
本陣とは、大名、公家、また幕府役人など公用の旅で利用する宿舎で、幕府公認の大旅館ということであるようです。
脇本陣は本陣の次に格式が高い施設で、一般の方も宿泊ができます。
旅籠屋(はたごや)は庶民が泊まる宿泊施設で、共同旅館です。
京町家と異なる外観の特徴として気になったのは下屋根の軒下に設けられた幕板、破風(はふ)部分、漆喰彫刻や棟の瓦の形。
幕板の役割としては諸説あり、雨風から店先を守る露除けとしての役割があるようで、地域により色々な工夫と違いが見られるのは面白く、虫籠窓などは京町家と同じ様な造り方が全国に広がっている事を実際に見られるのも興味深かったです。
外観の虫籠窓や格子など伝統的な意匠をもつ家が多く残りまち並みをつくる要素となっています。
2階の外壁には漆喰彫刻、職人の手仕事が見事です。
軒を支える「持ち送り」の意匠もさまざまです。
改めて気付かされたことは、普段、まち中にある物が無いことです。
これが無いからこそ、この地域の雰囲気が良いのだと思います。
空と建物との間に、電柱・電線が無いのです。
電線の地中化を進めることで、昔もこんな景色だったんだと思える様に景観を大切にされる取り組みは素晴らしく、だからこそ美しいまち並みなのだと思いました。
関宿を代表する旅籠の一つであった鶴屋。
千鳥破風の意匠が格式の高さを物語ります。
そして、この関宿は『生活をしながらの保存』をテーマとしており、伝建地区内で暮らし続けて行く工夫や配慮を積み重ね、まち並みが大切に守られています。
伝統的な行事として「関宿祇園夏祭」があります。
あまり聞きなれませんでしたが、江戸時代には、京都祇園祭、住吉天神祭などと並んで関西五大祭の一つとされ、文化年間には絢爛豪華な16基の山車(やま)が練り歩いたそうです。
現在は、中町三番町・同四番町・木崎・大裏の4基が練り歩い(巡行し)ているようです。
中町三番町 山車倉
また、「そこまでが精一杯」という意味で使われる「関の山(やま)」という言葉はこの祭りの山車が語源となっているようで、山車が東海道をふさぎ、これ以上通るに通れない様子を表しているそうです。
普段使う言葉の由来になっていることは新鮮な発見でした。
関の山車は、台車から上が回転する構造になっており、これを「舞台回し」と呼ぶようで、資料館で流される映像を拝見しましたが、祇園祭で鉾がまわる辻まわしとはまた違った「まわり」をしており、想像を超えた動きなどは他には見られない迫力があり一見の価値があると思います。
是非、実際の祭りを生で見たいと思いました。
道の途中からでしたが往復で3km程歩き、見どころが多くあっという間でした。
観光駐車場には無料の足湯場があり、歩き疲れた後は、こちらで疲れを癒しても良いと思います。(タオルなどは一部有料です。)
新旧の建築物に触れる
3日目は、聞かれたり、行かれた方も多いかもしれませんが「VISON(ヴィソン)」へ。
2021年7月、三重県多気町に造られた、豊かな自然に囲まれた広大な敷地に誕生した美しい村です。
敷地面積は東京ドーム24個分。
国内外の有名なシェフが手掛ける飲食店など、「癒・食・知」を備えた日本最大級の商業リゾート施設です。
「美しい村」=「美村」がその名の由来で、専門性を持つ施設を軸に、日本の各地方が抱える若い世代の大都市への流出や、地域経済の活性化に焦点を当て、未来に残る商業リゾート施設を目指しているそうです。
商業施設の背後に宿泊エリアのホテルが。
中央を走るのは自動運転EVバスです。
伝統と革新を融合させる新しい地域経済の活性化に向け、三重県、多気町、地元大学が共に産学官連携で事業に取り組み、施設の監修には造形作家・陶芸家の内田鋼一氏を筆頭に、多くのデザイナーやクリエイターがかかわっており、全エリアにおける建築の設計は赤坂知也建築設計事務所が手掛けられているそうです。
VISONの建物の多くに三重県産の杉が使われています。
伊勢神宮の式年遷宮をモデルとし、20年に一度木造建築物の一部の建て替えを視野に入れた上で木材を使用して施設を建築するなど、林業を継続した産業として支えることを目指しているそうです。
施設のスケールも大きいですが、コンセプトやテーマも非常に壮大な計画だと思います。
商業エリアに入っている店舗は洗練された選りすぐりのショップで、三重県内の店や商品の扱いも多い印象でした。
まさに地産地消ですね。
全てのエリアを見る事は出来ませんでしたが、迫力のある建物と、コンセプトと施設が融合し、これからこの施設がどの様に変化していくのかも楽しみに思える場所でした。
VISONの後はゆっくり出来ずに次の目的地へと高速道路で移動です。
三重県の伝統建築・新建築を見てきたので、近代建築も見なくては、と思い、伊勢市に有る「旧山田郵便局電話分室」(逓信館)へと足を延ばしました。
オレンジ色の屋根が特徴的な建物で、登録有形文化財に指定される由緒ある建築物です。
竣工は約100年前の大正12年、設計者は当時の逓信省技師・吉田鉄郎氏です。
この大正ロマンを今に伝える建物には、フレンチレストラン「ボンヴィヴァン」、クラフトチョコレートのトップブランド「ダンデライオン・チョコレート」など3つの店舗が入っています。
建物は平屋建てで、平面形は「コ」の字形をしています。
煉瓦造(れんがづくり)で、外面はモルタル、白セメントで仕上げられており、煉瓦造の郵便局舎として現存唯一の事例のようです。
赤色の桟瓦(さんがわら)葺き屋根に独特な形の千鳥破風や窓を配し、白色の壁に縦長の窓が並んでいます。
吉田鉄郎(よしだてつろう)氏が初期に手がけた作品で、日本の近代建築を考える上でも重要な建物の様です。
大正年代の建物として洋館と和風建築、社寺建築などの融合という雰囲気が伺え、今、まさにこんな建築がカッコイイと感じました。
全体的な雰囲気も良かったのですが、印象に残った意匠としては、千鳥破風から突出している木材です。
木材を加工し、意匠的に作り、突出させているのだと思いますが意匠的な意図や意味、この名称など色々と調べてみましたが不明な事が多く、ますます面白いなと思いました。
千鳥破風からくる、社寺建築の要素を取り入れている事から、この突出物は木鼻(鼻木)などと呼ぶものではないかという記載を見かけました。
伊勢神宮などが近く、社寺の要素を取り入れているのだとも思いますが、社寺でみられる木鼻の扱いとは随分と意匠、用途、目的などが異なると思い、多くのことが解らないというのは、古い建物の面白さ。
こういう建物が多く残されることは歴史的にも意味が有ることだと思いますし、良い建物は時を経ても良い物だと思います。
ですが、維持管理など残して行く為には多くの問題を抱えているのも事実です。
今回の『逓信館』の様に、この建物を上手く残し活用しこれから先も長く残していくことができ、また、多くの方に触れて建物として利用できるのは素晴らしいことですね。
京町家も同じで、ただ残すだけでは無く上手く活用しながら維持保存をすることが出来れば、より多くの京町家が残り伝統や文化が引き継がれ、まち自体の活性化に繋がるのだと思いました。
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