「京都の路地を考える」をテーマに、京都市都市計画局・浅田 毅氏、塚本 剛亘氏、八清・西村 孝平との座談会を行いました。
京都市が取り組む路地再生の考えや現状の課題、そして京都のまちをどのように未来へつなげるのかをうかがいました。
参加者
京都市都市計画局 まち再生・創造推進室
密集市街地・細街路対策 課長
浅田 毅氏
京都市都市計画局 まち再生・創造推進室
密集市街地・細街路対策 担当係長
塚本 剛亘氏
株式会社 八清 取締役会長
西村 孝平
京都市が取り組む密集市街地対策
― 京都市が進める路地再生の取り組みについて教えてください
歴史都市京都における密集市街地対策等の取り組み方針というのを平成24年に定めており、密集市街地対策として、細街路などの建物が建て詰まったところの対策に本格的に京都市としても着手をしています。
令和3年3月にこちらの取り組み方針を改定しまして、これに基づいて、路地再生含め、密集市街地の対策を取り組んでいるところです。
参照:密集市街地・細街路の防災まちづくり
京都市としては、「修復型のまちづくり」に取り組んでいます。
密集市街地対策、つまり木造の家屋などが密集して建っているところの対策は、全国的に言うとクリアランス整備と言われ、その街区ごとに買収などを行い、マンションなどの大きな建物にしてしまうというような再開発が行われています。
京都がいざこういった密集市街地対策を行うと京都のまちの骨格を壊してしまいますね。
京都は昔からまちが整備されてるところは"ろおじ"があり、町内などが息づいていて昔ながらの建物が残っています。
それが京都の魅力であり、京都のまちにとって大事なものです。
ご存じの通り、京町家条例などで趣のある古い建物は残していきましょうという取り組みも進めているところです。
他の都道府県と同じようにクリアランス整備でまち並みを変えてまで京都も密集市街地対策をするのではなく修復型のまちづくりを掲げて、地域に入り「地域の防災まちづくり」として一緒に活動していきましょうという方針で進めているところです。
参照:京町家を保全・継承するために (1)京町家条例
京都の魅力を残したまま防災も備えた整備をするには、大きな建物開発ではなくて、身近なハード改善として、行き止まりの道の先に扉をつけて二方向に逃げられる避難経路を確保するとか、奥に空き家があればそこを防災広場に整備したりなど、できるところで身近な整備をして、密集の解消をしていきます。
そしてもう1つが、「規制誘導策の活用による建物更新」です。
やはり法律によって建て替えや大規模改修ができないところもありますが、単に法律を緩和するだけではなく、防災性や安全性を確保した建て替えや改修ができるように、法律の特例規定を使って建物の更新を進めています。
「地域主体の防災まちづくり」を軸に、「身近なハード改善」と、「規制誘導策による建物更新」、この3つを柱に取り組んでるのが、「修復型のまちづくり」です。
昨年度末に取り組み方針を改定するに当たり、検討委員会を立ち上げて勉強会を開き、地域の方に意見をうかがう場を設けたのですが、やはり京都のまち並みを残すことが大事だという意見を多くいただきまして、これまで取り組んできたこの修復型のまちづくりは継続してやって行こうという方針となりました。
しかしながら、防災まちづくりを軸に身近なハード改善と申しましても、ちょこちょこしか改善できない現状もあり、その掘り起こしも含めて路地単位で何か改善や再生を検討し、路地単位の整備促進と位置付けて今後は新たに力を入れていこうということで、この改訂した取り組み方針にも記載されています。
八清としても同じ考えで、再開発みたいなことをすぐしてしまうのではなく、路地は京都のまちをつくってきた魅力の一つでもあるで、そういった趣を残しながら建物や通路を改善して、まちの防災性を高めていこうという取り組みをしています。
― 今抱える課題は何でしょうか?
課題はたくさんあるのですが...
特に昨年から本格的に上京区の出水学区をモデル地区と定めて、路地単位の整備をはじめています。
路地が集積しているエリアを選び、路地ごとの整備の方針を立てていますが、まず課題として上がるのが、建物更新を図ろうとしても、路地奥は建築基準法上、建て替え不可のところが多いので簡単に建て替えができないということです。
そうなると建築基準法の特例規定を活用することになります。
1つの敷地では、通常の建築基準法の建て替えができませんが、路地全体を一つの敷地とみなして、建築基準法の特例規定を活用する手法(連坦建築物設計制度)で建て替えの促進を図ろうと計画します。
事業者さんや行政でも検討しながら進めるのですが、次に大きな課題となるのが、路地沿道の地権者全員の合意が必要だということです。
例えば、5軒の家が建つ路地で、1軒が建て替えするという計画だとしても、他の4軒全員の合意を得ないと計画が進まないわけです。
参照:出水学区(上京区)の取組
出水学区では令和2年度に、学区の中でも最も路地や袋路が多い地域で路地毎に再生あるいは、保全の整備方針を定める街区計画を策定しました。
整備方針の決定にあたっては、住民の皆さんにアンケートを行うことで、地域の意向を反映させています。
令和3年度は街区計画に基づき路地沿道の方に、今後、建物をどう活用したいかなどについて、個別ヒアリングも行っています。
行政が入って、掘り起こし、地域の機運を高めて合意形成を促進しようと取り組んでいるところです。
なかなか1人の方が家を建て替えるとなると、簡単に重い腰が上がらない状況もあり、難しいなと実感しているところでもあります。
高齢の方がお住まいだと、そこを建て替えるということはなかなか難しいけれども、若い人が入ってくれたら、また雰囲気が変わるかなと思いますね。
逆に若い人を拒否する雰囲気になるところもありますかね?
ないことはないですが...基本的にはウェルカムだと思います。
ただ、地域全体としては若い人を受け入れたいとは言いつつも、いざそうなったときに不安を感じる方もいらっしゃるとは思います。
入ってこられる方の雰囲気にもよりますよね。
新しい人が入ってこられて、昔からお住まいの方とのコミュニティができ、地域の活動に参加していただくことで、地域活性化につながる例ができればいいかなと思いますね。
八清は路地で京町家などの家をフルリノベーションして賃貸で出しますが、若い人が喜んで借りてくださり、入居率は高いですよ。
古い貸家はたくさんありますが、おそらくきれいに使い勝手良くリノベーションされた貸家が少ないと思います。
これまで路地奥の貸家は家主さんの立場で言うと、貸すのにお金かけて改修なんかしたくないっていう気持ちがすごく強いのですが、大した改修をしてないと入居率が悪い。
特にキッチンやお風呂、トイレなどの水回りはきれいじゃないとなかなか厳しいですね。
変な言い方ですが、家主さんにそういう刺激を与えるイベントか何かを行政が行えば、なかには改修を考える方がおられるのではないかと思いますね。
例えばコンペ形式で改修案を募って、実際に改修をして入居者を募集すれば、地域の人たちにはどんな改修をするのか興味を持ってもらえます。
話題性もあるし、路地再生の促進にもつながると思いますよ。
行政だったら任せようという人がたくさんいると思うんですよね。
不動産業者が入っていったら、やっぱり考えますからね。
先日第1号ができましたが、京都市が固定資産税ぐらいの安い賃料で借り上げて、それを業者が肩代わりして転貸しするというのもいい事例だと思いますね。
もう1つ課題で言いますと、大きな地震が起こると倒壊する可能性が高いレベルの古い建物が多く残っていることです。
特に袋路で言うと、建物が倒壊して道をふさいでしまい避難ができなくなるという懸念と、火災の問題です。
倒れた家屋から出火して、火災が起きてしまうと周りも古い建物が残ってるので、燃え広がり、延焼拡大となってしまいます。
密集市街地は二項道路が多く、家に接続するまでの道自体が細いので、消防車が近くまで寄るのが難しいところもあります。
こういった課題に対しての対策も考えているというところです。
先ほど話に上がった、連坦建築物設計制度などの緩和措置を適応するには幅員がネックになっていくことが多いので、防災上、幅員がどこまで許容できるかというのが論点になるでしょうね。
路地の再生ができるところは良いですが、ちょっと無理かなっていうところはどういうふうに改善するのが良いのかを、何か考えていかなければいけないと思います。
独自のコミュニティが息づく路地の魅力
再生と言いましても、単に整備して建て替えるのではなく、防火構造の木造といった、京都らしいまち並みが残せるような建て替えを促進したいと考えています。
また、よく言われてるのが、路地には路地ならではのコミュニティが息づいているということ。
個人的な意見にはなりますが、路地ごとにお地蔵さんが祀られていたり、町内行事が行われていたり、井戸端といわれるような、近所でちょっと集まって話す場が今なおあって、やはりそういうコミュニティは大切に残していきたいなとは思います。
地域の方々にとったアンケートでも、路地の魅力として、京町家や石畳、先ほども出たお地蔵さん、表札も上がっていました。
風情があるという意味で、地域の人たちもいいところだと感じておられるようです。
あと、防犯面においても通り抜けできない路地だと知らない人が入ってくることはないし、プライバシーが守られているので住みやすいという意見が聞かれました。
私は当初、路地の物件は再建築不可で銀行融資もきかないし、火事で燃えたらどうしよもないとかなり否定的でした。
しかし、だんだん路地を扱うようになりいろいろな取り組みをしていたら、意外と路地って魅力的だなと感じるようになりました。
再建築不可だからこそ多くの町家が残っているというわけです。
八清で路地を手掛けた第1号は、東山の高台寺のところにある通路が長さが100mもある路地物件でした。
設計事務所の人に、とりあえず1回だけ路地でやらせてほしい、絶対売れるしと言われて。
そんな路地の奥、無理やでとか言いながら、恐る恐る引き受けました。
完成後、東京の人が新幹線に乗って、オープンハウスへ来られて、見られたあとすぐに買いますとおっしゃって。
いいんですか、再建築不可ですよって言いましたが、こんなきれいに改修されている町家はないのでと買っていただきました。
途端に私も路地の見方が変わりました(笑)
その後、銀行によっては路地物件(※条件があります)でも融資してもらえるようになりました。
基本的には京町家カルテか京町家プロフィール(京都市の外郭団体「公益財団法人京都市景観・まちづくりセンター」が発行)が必要にはなりますが、融資してもらえるのであれば、ますます路地に対するデメリットが減ってきたわけです。
もちろんリスクもありますので、リスクをある程度わかっていただいてから買ってもらっています。
― 最後に今後の展望をおうかがいできますでしょうか。
先ほど話にも上がりましたが、連単建築物設計制度を使って路地単位での整備を進めていますが、行政が入ってもなかなか合意形成が難しい、高齢化もあり動きづらいという状況がわかってきました。
それ以外の手法も検討しながら、路地再生を進めたいと思いますし、短期的に動くというのは難しいと思うので、防災まちづくりをしながら中長期的に取り組みを継続していきたいですね。
例えば路地の奥にある再建築不可の空き家を、特例を使って地域で協力しながらまち並みを残し再生していくような、路地再生の良い事例を作って促進していければいいなと考えています。
私が生まれた1950年は人口が8,400万人だったんです。
2050年、あと27年先にはこのままいくと8,800万人になるという統計が出ています。
8,800万人まで人口が減ったら現在(2022年)の人口1億2,000万人から約4,000万人減るわけですね。
その中で不動産の価値を維持できるかといえば、やはり空き家の増加により値下がりするんだと思います。
そう考えると、都心居住がメインになると思っていて、立地の良い、それこそ再建築不可の路地奥でも、需要があるのではないでしょうか。
八清では路地の物件をリノベーションして販売していますが、幅員が4m未満の二項道路の物件も販売しています。
普通の不動産業者から考えたら、再建築不可の路地は安い、二項道路は再建築できるから高いと思っていますが、それぞれ価格を出して販売したときに、それほどの差がないんです。
もちろん、再建築できる方が価値は高いし、いいに決まってることはわかりますけど、それなりにお金をかけてリノベーションしているので、建て替えをするっていう考え方があんまりない。
それよりも都心や利便性などの条件の方が優先されているということですね。
そうなんです。
話が少しそれますが、私はマンションも再建築不可物件だと思っているんです。
基本的に法律では再建築できますが、マンションの区分所有者全員の合意を取るなんてもう至難の技でしょう。
そこへ景観条例の高さ規制もあってさらに厳しい。
お客さんには路地はマンションと同じですと言っていますよ。
路地は建て替えができないけれど、中の改修はできるので、物件の価値を維持できるような改装をすることが大事ですよとお客さんとお話することがあります。
そう考えると、路地の見方も変わってくるのではないでしょうか。
そうですね。
連坦建築物設計制度を使った建て替えという事例がないこともないのですが、行政も事業者さんも頑張って連携してやっていこうとなっているところですね。
今後、ますます高齢化が進み、空き家が増加することが懸念されています。
京都市では空き家税を策定し、新たな一手でその対策に乗り出しました。
路地単位から官民が連携して再生し、歴史や文化が息づく魅力ある京都のまちを保全し、次の世代へバトンをつないでいきたいと思います。
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京都のまち中を歩けばたくさん出合う"ろおじ"こと路地。八清での路地の活用や再生の取り組みをご紹介します。
- この記事を書いた人Hasegawa Yuka
- 寡黙で知的、の~んびりな空気を漂わせておきながら超スピードで八清ブログ記事を書き上げるメディアデザイン部のテキストマシーン。ほがらかな笑顔で相槌♪聞き上手な彼女は社外的な取材もこなす。彼女にインタビューされた日にはすべてを暴かれてしまうに違いない。
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