今年もコロナにはじまり「経済の停滞だ」「政権交代だ」と言っているうちに、すっかり肌寒い季節となってしまいましたね。
皆さんいかがお過ごしでしょうか、八清の西村直己です。
シリーズ『京町家投資のススメ③』ということで、前回の第5話では居住者(利用する側)はどのような視点で入居場所を選ぶのか、そこに戸建賃貸の需要はあるのか?について説明いたしました。
今回の第6話では、『戸建賃貸マーケットはブルーオーシャン(中編)』ということで、
経営者視点で賃貸戸建の『強み』・『弱み』についてお話いたします。
統計データを交えながら説明していきますので、中編以降もお付き合いくださいますようよろしくお願い致します。
戸建賃貸のオーナー(経営者)視点での『強み』
経営者視点での戸建賃貸の【強み】から考えていきましょう。
経営者視点では、集客上の競争優位性、収益性、換金性や運営効率などを扱います。
その中で、私が考えつくものを挙げてみました。
①需要と供給の関係で競争優位を形成できる
②立地が悪くても個性や魅力があれば借り手がつく
③管理費・修繕費を自分で意思決定できる
④バリューアップをしやすい
⑤税制上のメリットを得やすい
以上ついて考察していきますね。
この内容についてですが①②はマーケットの特性の話です。
③④⑤はマンション(区分所有権)との比較において出てくるメリットです。
①需要と供給の関係で競争優位を形成できる
まず①について解説します。データが全てを語ってくれています。
表1は5月10日現在のHOMESの種別の賃貸物件登録件数です。
※LIFULL HOME'S(ライフルホームズ)掲載物件データより引用。 リンクから最新データを見ることができます。
戸建賃貸の供給がいかに少ないかお分かりいただけるかと思います。
さらにSUUMOでは賃貸物件の属性による抽出ができますので調査をしてみました。
5月11日現在の京都市の賃貸物件の登録件数は434,000軒
そのうち長屋を含む戸建賃貸物件の登録件数が18,700軒
そのうち、新築~築5年までの戸建賃貸物件の登録件数が677軒
リフォーム済みの戸建賃貸の登録件数が148軒
リノベーション済みの戸建賃貸の登録件数が1,480軒 になります。
ということは戸建賃貸でコンディションの良い物件はせいぜい2300軒程度なのです。
賃貸物件数に対する比率でいうと、状態の良い戸建賃貸の割合は全体の僅か0.5%にすぎません。
以下の表2で図解していますので確認してみてくださいね。
※表2:状態の良い賃貸戸建の少なさが一目瞭然ですね。
もう一つ調査を行いました。
戸建派/マンション派、持ち家派/賃貸派のニーズ分析です。
以下に挙げる表3は2019年のリクルート住まいカンパニー『住宅購入・建築検討者』調査の統計を参考にさせていただきました。
※この図でのアンケート対象者は、購入及び建設予定者なのですが、賃貸を探されている方々にもすくなからずその傾向があると解釈してお話を進めてまいります。
※(表3)一戸建て・マンション意向(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー『住宅購入・建築検討者』調査(2019年度)より転載)
この図によると関西は戸建派60.3%(※数値1) マンション派24.5% となります。
次に、家を買う派(持ち家派)/借りる・その他派(賃貸派)の統計は次の表4の通りです
※(表4)カーディフ生命「世代別の生活価値観・住まいに関する意識調査(2019年9月)」を引用・抜粋)
この結果から、住宅は持ち家派78.4% 賃貸派21.6%(※数値2)となります。
この二つの結果を掛け合わせると、戸建派かつ賃貸派は、60.3%(※数値1)×21.6%(※数値2)=13.02%となります。
つまりは、賃貸戸建を求める方が約13%、潜在的にいらっしゃる事になります。
京都市の住民が約140万人。
そのうち何割が住まいを探していらっしゃるかははっきりと分かりませんが仮に20名に1人が何らかの家を探されているとしても7万人です。
戸建賃貸を求められる潜在需要は70,000人×0.130≒9,100人という事になります。
京都市の賃貸物件全体に対して戸建賃貸の供給が18700戸(京都市の賃貸物件全体に対して4.3%)。
その内でコンディションの良い戸建賃貸が2,300戸(京都市の賃貸物件全体の0.5%)。
2,300戸しかないのに対し、約1万人(9,100人)の需要があるわけですから、マーケットの優位性は十分にあると言えるのではないでしょうか。
②立地が悪くても個性や魅力があれば借り手がつく
利用者視点でも述べた戸建の個別性=コンセプトの創り易さと関係があるのですが、戸建ではマンションでは実現できない要素があるため、多少立地が悪くても物件のコンセプト・デザイン性・機能性・ユーザー体験といった魅力や個性で十分に勝負ができるという事です。
八清で企画した戸建で、賃貸人が付いた最近の例を挙げますと・・・。
上京区三番町の平屋・・・最近売買の再販で売れた物件ですが、たった44㎡という広さ+交通機関がバスしか無いエリアにもかかわらず、ご成約賃料はで12.5万円でした。
大津市長等二丁目・・・JR大津駅から徒歩15分かかる立地でありながらも71㎡で13万円、私自身もこれできまってくれたかと衝撃の賃料でした。
個性や魅力に沿ったデザインの住まいのポテンシャルを改めて感じましたね。
戸建は古民家でのエコな暮らしであったり、ペットとの共生であったり、車やバイクなどの愛車を車庫に置きメンテナンスを楽しむことができます。
家具やインテリアのこだわりなど、思いっきり尖ったコンセプトの物件を創ることができ、ニーズに合う借主が見つかれば立地の悪さを覆す賃料を得ることができる可能性もあるのが戸建の強みです。
③管理費・修繕費を自分で意思決定できる
マンション(区分所有権)の場合、管理や修繕の意思決定は長期修繕計画と管理組合の決議に委ねざるを得ません。
戸建の場合も大きな修繕に備えて普段から積み立てをしておくのが良いのですが、自分の判断で行う事なので、分譲マンションのように年々費用が上がっていくという事はありません。
戸建では日々のメンテナンスを丁寧に行うことによって長寿命化させる事が可能です。
またそのためにメンテナンスをしやすいデザインにしておく事も大切です。
その一方で管理/修繕コストが年々増え、最後は売りにくい資産になるのが分譲マンションの一般的特性です。
従って最後はいかに売り抜けるかがポイントになります。
その点、木造の戸建は築年数が何年経過しても構造を含めたリノベーションを行えば必要な住宅性能を取り戻すことができます。
分譲戸数にもよりますが区分所有権との比較においては管理コストも修繕コストもマンションのほうが高い傾向があります。
理由としましては、マンションにのみ必要な様々な大型設備(例えばエレベータや貯水槽やポンプ、空調機器、消防設備)や防水工事などがあり、その分メンテナンスも高額になります。
戸数の少ないのにハイスペックな共同住宅は一戸あたりの管理修繕コストが特に大きくなります。
その点、戸建や町家で特にケアしておくべきなのは、せいぜい雨漏りと給湯器の故障、水道設備関係の緊急トラブルの対処ぐらいなのです。
管理内容や管理先を決めることができ、修繕費を自身で積み立て出来るので、結果としてこれらのコストを安価に抑え易いと考えております。
④バリューアップをしやすい
バリューアップに関していえば、戸建は建物全体をリノベーションできますが、マンション(区分所有権)ではその対象は専有部分内に限られます。
マンションには利用用途上の制約が規約にあり専有部分内の工事しかできない上に、上下両隣に住民がいらっしゃるため、遮音性能の限界など集合住宅であるがゆえの制約があります。
そのため、施設全体の所有権者もしくは管理組合の決議がなければ共有部分をバリューアップすることはできません。
分譲マンション区分所有権のリノベーションの価値上昇には限界がありますが、戸建ではファサードから構造、インテリア、全てを変更できる可能性があるので、新たな世界観や価値を創造できる可能性があります。
(そのかわりに、リノベーション工事の際の近隣対策はマンション以上に手間がかかるというデメリットもあります。)
⑤税制上のメリットを得やすい
敷地形状、建物の構造、耐用年数など戸建の個別性により固定資産税、所得税や相続税など税制上のメリットを得ることができます。
投資家・これから投資するみなさんにとっては、この辺りが最も興味のひく内容ではないでしょうか。
私としても早くお伝えしたいのですが、このテーマで軽く1話を書けてしまうほどのボリュームなので、詳しくは今後ブログ内で書きたいと思います。
オーナー(経営)視点での戸建賃貸の『弱み』
次にマンションと戸建賃貸を比較したときの【弱み】を考察してみます。
弱み案として挙げた、以下の一般的なイメージに対して考察してみました。
①マンションよりも再販価値が低い
②マンションよりも収益性が劣る
③マンションよりもメンテナンスが面倒
④マンションよりも市場が不透明
①マンションよりも再販価値が低い
立地と建物の付加価値、需要と供給次第というところですが、駅や中心市街地からの距離では統計的にはマンションに軍配が上がることは否めませんし、再販価値で劣る可能性はあります。
しかしながら、駅からの距離が少しくらい遠くても、戸建はコンセプトやデザインで勝負できます。
結果人気物件になり、ウェイティングリストが出来るようになれば貸主優位です。
改修されたリノベ物件であれば駅からの距離の遠さを払拭するだけの魅力があり、さらに町家古民家であれば独特のデザインや居心地、希少性から再販価値も高くなり易いです。
詳しくは次回説明します。
重要なのは購入時の価格と間取りです。
適正な価格で購入された物件は好立地であればあるほど戸建でも底堅く、大きく値崩れすることはありません。
地域のマーケットニーズに合った物件は再販価値も高くなります。
②マンションよりも収益性が低い
一般論で言うなら、戸建の購入で土地と建物を両方買うと、空中に存在するマンションの一住戸(区分所有権)と比較するとどうしても高額になり多くの場合、収益性ではマンションより劣ることになると思います。
敷地条件や建物のプラン・仕様によるので確実にマンションが有利という事は言えないのですが、土地の単価が相場よりも割安になる細街路や路地奥の京町家や再建築不可物件をご購入頂くことで、マンション(区分所有権)以上の収益性を得られる可能性があります。
もちろん様々なデメリットもあります。
詳しくは第8話以降でお伝えできればと思います。
③マンションよりもメンテナンスが面倒
メンテナンスですが、マンション(区分所有権)と比較すると建物の外壁や屋根、庭などの外部のメンテナンスが必要になる点で管理や修繕の手間は増えます。
(共同住宅の一棟の管理と比べると圧倒的に楽ですが・・・。)
強みの⓸で伝えたとおり、普通の戸建住宅は区分所有権よりは自身でのメンテナンスが必要な範囲は広くなります。
しかしながら長屋の町家であれば外壁をケアしなくて良いこともあり、むしろ建具の調整や塗装など家屋内のメンテナンスが中心になると思われます。
費用はたいした負荷にはなりません。自分で行う場合、楽しめるかどうかがカギです。
④マンションよりも市場の透明性が低い
分譲マンション(区分所有権)や賃貸マンションは成約事例データ、長期修繕計画、管理規約等が整理されており、価値や条件面の比較をし易いのですが、戸建物件は個別性が強く、建物のコンディション(老朽度)も様々であり、修繕履歴情報も十分でないことから同じ物差しでは比較しにくいという事が挙げられます。
逆に言えば先に述べた強みの部分で提示した、バリューアップの可能性や予想を超える価値上昇の可能性もあり、不透明性な要素が逆に参入障壁であり魅力という事もいう事ができるかもしれません。
特に中古戸建のリノベーションに関してはマンションよりも施工面、法的適合性、近隣対策面での難易度が高いので、量産タイプを手掛けることが多い大手に対抗することができます。
大手も参戦する市場においてニッチトップになれる可能性が高いのです。
まとめ
今回は、オーナー視点での戸建賃貸住宅の強みと弱みについてまとめました。
需給バランスにギャップがある事が、戸建賃貸運営の最大の魅力です。
建物全体のバリューアップで付加価値をつけられる点、管理費や修繕費をコントロールできマンションのような大型の建物に比べると運営コストを抑えられる点が特徴です。
立地の悪さを補う個性が建物にあれば、弱みを補ってあまる利点が数多くあります。
弱みとして検証をした4点ですが、戸建住宅は建物や庭のメンテナンスをライフスタイルとして楽しめる方であればデメリットとしてとらえるほどではないでしょう。
そんな人にはぜひ戸建賃貸投資をお勧めしたいです。
また、戸建物件の中には、再販価値や収益性は物件選定によりマンションを凌駕するものあります。
個別性が強く、市場の透明性が低い環境だからこそ、隠された良物件に巡り合う可能性があるのです。
(第7話)戸建賃貸のマーケットはブルーオーシャン・後編に続きます。
次回もお楽しみに!
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通りおすがり
はじめまして。
この回を読んだ後、第1回からすべて読みましたが、非常に分かりやすく、また、メリットだけでなくデメリットまで、きちんと紹介されていて、非常に良いコラムだと思いました。
なので、この第6回で、需要の算出で「京都市の住民が約140万人。」から算出されているのが非常に気になりました。人口は、赤ん坊も子供も含んだ数。ここは「世帯数約70万世帯」にしたほうが、良いのではないでしょうか。世帯で見たときに、住宅を探しているのが5%ということはないと思うので、計算結果に影響はないと思います。(10%と仮定すれば、計算結果は同じです)
いきなりの指摘失礼しました。
コラムの続き楽しみにしています。
西村 直己から通りおすがりへの返信
コメントを頂き有難うございます!
統計からの仮説のご指摘ありがとうございます。
仰るとおり世帯数を母集団にするほうが説得力があり適切だと感じました。引き続き、皆さんのためになったと思って頂ける記事を投稿してまいりますので、ご覧頂けたら幸いです。