みなさま、いかがおすごしでしょうか。
前回、前々回の前中編につづく後編をお届けいたします。
前回第6話からずいぶん空いてしまったので、前回の復習から入っていきますね。
今回のお題は、オーナー(経営者)視点での戸建賃貸の『機会』・『脅威』
前回の第6話では戸建賃貸の経営者視点での『強み』・『弱み』についてお話しました。
続いて賃貸物件を所有するオーナーさん側での『機会』・『脅威』とについて考えてみたいと思います。
【目次】クリックするとジャンプします
1.オーナー(経営者)視点での戸建賃貸の『機会』
戸建賃貸住宅の経営者にとって機会になりうることについて3点考察してみました。
- ① 所有から利用(シェア)の意識の変化
- ② ステータスよりも日常生活の豊かさを重視
- ③ 三密の回避とリモートワークのトレンド
①所有から利用(シェア)の意識の変化
人口減少の少子高齢化時代において不動産の資産価値は平均的には右肩下がりになると予想されており、あえて所有する場合、資産価値が維持できる不動産かどうかの見極めが購入時に重要視されるとみています。
その中でも、
戸建住宅は個性とライフスタイル重視、
マンションは基本的には利便性・快適性・メンテナンスの簡便性という合理性の最大公約数の追求
であるのは変わらないと思います。
購入する不動産が相対的に資産になりにくいのならコスト(経費算入)と割り切って賃貸という考え方もありますし、数年先の景気が読めない不透明な時代だからこそ、今後も賃貸派がじわじわと増えていくと予想しており、戸建賃貸の市場機会は拡がると考えております。
②ステータスよりも日常生活の豊かさの重視
消費の意識はコロナウイルスの有無に関わらず世代間で大きな差があり、若い方ほど物質的な価値よりも精神的な価値を重視する傾向があります。
コロナショックで追い打ちをかけるように変わってゆくのは、ステータス的な消費がますます減るという事です。
社会不安が高まると、ハイブランドの洋服・時計・自動車などの贅沢モノは売れなくなり節約志向が強くなります。
不動産でも同じ傾向です。
やや不便な高級住宅地(首都圏で言えば田園調布、関西圏で言えば芦屋の山の手)は昔ほどの人気がないと聞きます。
今後はブランドやステータスよりも資産価値のほうが重視されるでしょう。
そしてもう一つは、自分の普段の生活をどう充実させられるか、家にいる時間でいかに楽しむか、心が豊かにな暮らしができるかに意識が向く傾向が強くなると考えております。
自分の時間を大切にするための立地や建築プランを希望される方が増えるでしょう。
例えば、
- ◆海の見える場所に住んで休日にサーフィンを楽みたい
- ◆トレイル好きが山と近い場所に住みたい
- ◆都市文化の成熟した街に住んで最新の流行や芸術に触れたい
- ◆自宅で映画や音楽鑑賞をしたい など、
ちょっとした自分の心の贅沢が出来る住まいのニーズが更に高まっていくでしょう。
結果、自分にとっての心の豊かさや価値観が住まい選びに反映されることになると予想します。
この点において自分のライフスタイルが追求できる戸建賃貸の市場機会はますます増えていくと考えております。
③三密回避とリモートワークのトレンド
コロナショックを契機としてリモートワークをはじめとしたIT技術によりビジネスの競争原理のパラダイムシフトが起こり、人の価値観が大きく変わりつつあります。
住環境が良い自分の好みのエリアに住み、仕事も自宅や自宅の近くでリモートワークで行うという人、または会社勤めであってもその頻度が増えるのではと考えております。
人類の歴史は感染症との闘いの歴史だとも言われます。
コロナウィルス問題が仮に収束したとしても、第6波、第7波の発生または異なるウィルスがまた出てくる可能性もゼロではありません。
IT環境さえあればどこでも仕事ができるといった方が増加していますし、感染症を避けることを考えると人口密度の高い都市に住むことやマンションに住むこと自体リスクだと感じる人も増えるでしょう。
おのずとオフィスに近い都心や大都市の中心部に住むことの必然性は下がっていくでしょう。
東急電鉄株式会社のアンケート(生活行動と交通に関するアンケート 調査結果概要のご報告 図5参照)でも、
93.8%の方はこれまで通り公共交通機関で通勤し、移住はしないというデータがありますが、残りのコロナ禍が原因で転居を考えている6.2%は決して少ない割合ではありません。
93.8%の中には自宅や第三の場所でリモートワークを行えると考えている方も一定数含まれています。
※生活行動と交通に関するアンケート 調査結果概要のご報告(引用元:東急電鉄株式会社)
また今後は二地域居住(デュアラー) という新しい暮らしを希望される方も増えていくと言われています。
AI、5G等のテクノロジーの発展で、リモートワークでの知的生産性が低下しないことが自明になれば、住まいやオフィスの場所や創り方や求められる要素、しいては組織運営の在り方も根本的に変わってくるはずです。
利便性の高い近郊や、文化や自然が豊かな街の人気が再燃してくる可能性があり、今回のコロナウィルスによる価値観の変化は戸建賃貸には追い風になると私は考えております。
2.オーナー(経営者)視点での戸建賃貸の『脅威』
戸建賃貸住宅の経営者にとって脅威になりうることについて2点考察してみました。
- ①不動産価格の下落の可能性
- ②集合住宅が提供するコミュニティサービスの進化
①不動産価格の下落の可能性
これから不動産を買おうとされる方はみなさんが心配される問題です。
世界でも少子高齢化が最も早いスピードで進む人口減少社会となっている日本の不動産マーケットはコロナショック以前から間違いなく下がると言われています。
不動産コンサルタントの長嶋修氏の言葉を借りると端的に「三極化傾向」と予測されています。
すなわち不動産の資産価値が、①地価が上昇もしくは維持されるエリア、②じわじわと下落していくエリア、③ゼロもしくはマイナスに向かうエリアの3種類に大別されるという分析です。
コロナウィルスで世界経済が停滞し、今後ほとんどの業界でビジネスのデジタル化が起こり、人が動かなくてもモノやお金が動くようなビジネス手法の変化が起こるでしょう。
そんな中でオフィスの在り方だけでなく居住用不動産のトレンドも変わりつつあります。
世の中の環境が変わっても絶対に変わることのない不動産の大原則は、
(1)需給バランスありきであること
(2)賃料が不動産の資産価値のベンチマークになるということ
(3)融資の姿勢(ファイナンス)によって不動産価格は大きな影響を受けるということ
の3点です。
賃貸需要があるエリアは人の流動性が大きくエリア外からの人の流入が一定数あり、人口動態もいびつになりにくいため、世帯的、年齢的、職業属性的な多様性が形成されやすく、街としての持続可能性が高まり、その賃貸需要が継続する事により不動産の資産価値の維持に繋がりやすくなります。
一番良いのは、こういった賃貸需要のあるエリアの中で賃料や流通価値が下がりにくいエリアにある物件を選定・購入いただくことです。
このあたりの見極め方は次回以降の記事で紹介しますが、こういったエリアの住宅は通常マンション分譲が中心で戸建住宅は供給数が少なく、価格の下落圧力が低い=リセールバリューが高い傾向になります。
時代の変化に適応できる立地か、ターゲットユーザーのニーズに合う建物プランか、収益性に見合う価格かの視点で戸建住宅を見極める力を養っていただければ、これからの先の読みにくい時代でも資産価値が維持できる戸建物件を選定いただけるのではと考えております。
②集合住宅の提供するコミュニティサービスの進化
賃貸ではまだまだ少ないですが集合住宅では様々なサービスが実現されはじめています。
ラウンジやパーティルーム、キッズルーム、家庭菜園など様々な共用施設、さらにコンシェルジュによるサービス(来訪者対応、荷物預かり、レンタカー、クリーニングサービス)が充実。
賃貸戸建は機能面では集合住宅のサービスには到底敵わないのは最初からご理解いただいていることと思いますが、それでも戸建賃貸の居住者がないものねだりしたくなるのは年々進化するコミュニティサービスの部分と感じています。
人と人との関係が希薄になる中、やはり繋がりに対するニーズは大きいです。
マンションやアパートは単なる住まいの器でなく、住民同士がコミュニティ内で共有、交流、助け合える可能性があるのです。
今後多くの場所で実現されていく可能性の高いサービスとして物品のシェア(常時使わないもの)、サークル活動、子どもやペット預かりなどが挙げられます。
戸建賃貸でこういったサービスを最初から提供していく事は通常不可能です。
個人的に興味があり応援しております東京の賃貸運営事業者のメゾン青樹さんが運営されている豊島区の『ロイヤルアネックス』や練馬区の『青豆ハウス』では、共有施設に頼らず様々な仕掛けで各世帯が家族のように交流し、助け合うコミュニティをコミュニティが育まれています。
戸建で住民同士の繋がりをいかにつくるかは、不動産管理会社としての手腕とアイデアが問われるところだと思います。
このご時世、集まって住むのはリスクがあると考え、戸建に分散して住みオンラインのコミュニティで繋がっていれば十分という考え方もあります。
また個室の多い戸建賃貸のほうがマンションやアパートよりもリモートワークがしやすいという強みがあります。
新型コロナウィルスの状況下に適応をした戸建住宅での新しい暮らし方、繋がり方を模索していくのが目下の課題です。
集合住宅の共用施設を利用したサービスは魅力的ですが、オンラインで出来ることの選択肢も増えていることから賃貸戸建が選ばれにくくなる事はないと考えております。
こんな時代だからこそ地域コミュニティの最小単位である町内会の可能性を再考してみるのはどうでしょうか?
面倒な事は避けられる風潮がありますが、マンションでできる事は皆さんの街の町内会でもできる可能性があります。
京都に住み始めたけれど、まだ町内会に参加したことがないという方は一度参加してみてはどうでしょうか?
京都市内の町内会は他府県と比べるとユニークな面が色々とあります。
意外な発見があるかもしれませんよ。
3.『戸建賃貸市場はブルーオーシャン』まとめ
本シリーズ『戸建賃貸はブルーオーシャン』の前編(第5話)では入居者視点による強みと弱みを確認し、戸建住宅はライフスタイルの追求がしやすいことが最大の武器であることを確認しました。
また、第5話の後半・中編(第6話)では戸建賃貸の経営視点におけるSWOT分析を致しました。
戸建賃貸の強みの大きな一つである需給ギャップに着目し、経営視点のその他強みとしてターゲットニーズ、コスト、バリューアップについて着目しました。
弱みの仮説として市場の透明性の低さ、再販価値の低さ、収益性の低さ、メンテナンスの煩雑さを挙げ検証しましたが、物件選定やマネジメントの仕組みによって回避可能であることをお伝えしました。
本稿では、所有から利用(シェア)へと人の価値観が変わり、さらに他人軸から自分軸への暮らしへと価値観が変わるにつれ、戸建の新しい市場機会がある可能性について触れました。
また戸建賃貸市場の脅威については不動産価格の下落と集合住宅のコミュニティサービスの進化を挙げました。
戸建賃貸はオンラインリモートワークとの親和性や物件特性を活かした魅力的な物件づくりと管理運営を行うことで、ニッチトップになれる可能性がまだまだあるというのが私の結論です。
戸建の賃貸活用については八清にご相談を頂ければ、最も良い活用法をご提案させていただきます。
次回は京町家のリセールバリューについてご説明させていただき。
お楽しみに!!!
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