ご愛読いただいている皆様、久しぶりの投稿となり申し訳ありません。
今年7月に八清の代表取締社長に就任し、会社代表として志を新たに心を引き締め、会社の意思決定や不動産業務をこなす日々です。
社長交代による業務や会社の繁忙期が続き、方々へ東奔西走しておりました。
さて、これまでの私の記事では
と京町家や戸建賃貸投資の妙味についてフォーカスしてまいりました。
今回はその過去の内容をさらいながらも「なぜ京町家はリセールバリューが高いのか?」について実データに基づく論証を上げ、お話ししていきたいと思います。
不動産投資では賃貸時の収益性を注目しがちですが、それと同等に重要なのは出口価格(売却価格)がどうなるかです。
収益性が高くても大幅に値下がりしての売却であれば投資価値は総じて低かったことになります。
したがって、投資において「再販価値(=リセ―ルバリュー)」というのは投資では非常に重要な指標になりますし、投資ではない実需用物件(=住宅用物件)においても大きな金融資産となります。
投資はもちろん、実際に住む住宅を買う場合においてもしっかり押さえておくべきポイントです。
現代社会において、一生同じ場所で暮らす可能性の低さや不透明な経済情勢を考慮し、大きな値下がりがしない物件を希望される方が増えているので、そういった方に読んでいただきたい記事です。
今回第8話では弊社のリノベーション京町家の再販価値(=リセ―ルバリュー)について解説していきます。
【目次】クリックするとジャンプします
1.時間経過とともにリセール価格が高くなる不思議な現象
京町家再生物件を多く取り扱う弊社では、面白い経済現象を確認しております。
弊社はリノベーション済みの京町家を年間20軒以上販売しておりますが、顧客に購入いただいた物件が再販されるケースがあります。
このような再販事例が58件ほどある中で、再販価格が初回購入価格より100万円以上価格が下がったのはなんと5件ほど。
直近5年間の事例では僅か2件しかありません。
八清リノベーション京町家のリセールデータから考察をします。
弊社リノベーション京町家の平均リセールバリューと購入価格比は
購入時平均3,362万円→再販時平均3,923万円(総件数46件、平均保有期間は5.3年)で117%でした。
この数値は価格を維持するだけでなく元の購入価格を上回る値で売却できた、ということを示しています。
もっとも、京町家の宿泊施設物件は直近の数年はバブリーな部分もあったので母数から除外してみましょう。
宿を母数から除外した弊社リノベーション京町家の平均リセールバリューと購入価格比は
購入時平均3204万円→再販時平均3534万円(総件数38件、平均保有期間5.5年)で110%でした。
以上、弊社リノベーション京町家のリセール取引履歴の46件のエリアの内訳ですが
下京区 14件 中京区 8件 上京区 9件 左京区 1件 東山区 7件 北区 7件 です。
さらに上京区、北区で駅から少し離れた徒歩約15分以上のみの物件を抽出した場合の数値は、
購入時平均3116万円→再販時平均3498万円(総件数12件、平均保有期間5.1年)で112%でした。
エリアによる価格形成の特徴として、中京区、下京区、東山区の中心部にある京都のブランドエリアの価格維持率が高いのは明らかと考えていました。
しかし、旧市街地の辺縁部である『準郊外』と思われる立地にある京町家リノベーション物件でも、全体平均と同等のリセールバリューを示すことができ、立地的な要因にとらわれない京町家のユニークな価値を裏付けるデータが出ています。
とは言ってもデータサンプルが多くはないので、準郊外型物件のほうがリセールバリューが高い傾向と言い切る事はできませんが、ユーザーが少し駅から離れた立地であっても、こだわりのある建物やデザインの良い物件に住むことに価値を置いている意識の表れと考えられます。
こちらが先ほどの分析のソースである弊社のリセールデータの一部です。
※表にも上がっていますが、中には売却価格が購入価格を下回っている物件もあり全ての不動産が右肩上がりになっているわけではないので、その点はご承知ください。
もし、リセールデータをよりご覧になりたい方、提案をお求めの方は弊社までご相談ください。
2.リセールバリューが高くなるメカニズム
では京町家のリセールバリューが一般の戸建住宅に比べて高くなるのはどうしてでしょうか?
この要因として私は大きく5つのファクターが影響していると分析しています。
これまでの記事と重複する内容もありますので箇条書きでまとめてみました。
① 京町家(伝統建築)の人気、希少性と需要
② 狭小の京町家の需要と経済的合理性
③ 立地の強みと地価上昇との関連性
④ 建築価格上昇との関連性
⑤ 賃料で示される資産価値
5つの要因ですが、以下で細かく説明していきます。
① 京町家(伝統建築)の人気、希少性と需要
〇京町家の認知が広まった経緯
・【90年代の後半】「SECONDHOUSE」という京町家Caféが東洞院通蛸薬師(御射山公園前)にでき人気になる
この「SECONDHOUSE」が京町家店舗の人気に火をつけた先駆け。
以降京町家の店舗活用が人気となり様々なレストラン、居酒屋、スイーツ、飲食店、美容室、小売店、事務所、企業オフィスが市内中心部に増え、旧市街地の郊外にもひろがりはじめる。
↓
・【2000年ごろ】再生京町家の住宅向け活用がじわりじわりと拡大
京都では京町家作事組や八清を筆頭としてリノベーションや再生販売を取り扱う工務店や不動産会社が増える。
↓
ゲストハウスブームの到来で京都の観光都市としての国際的評価が高まり、京町家の宿泊施設が人気となり認知が急拡大。
他府県での町家/古民家の宿泊施設活用が一気に進むことになる。
以上のように、多方面で町家/古民家リノベーションが全国で市民権を得た。
〇建築的な魅力と希少性
・京都らしい特徴的な外観(年代により色々なパターンあり、格子にも種類あり)
・日本建築としての魅力(建物の素材感や味わい、構造材や架構など)
・京町家の独特な間取りや構成要素(通り庭、火袋、おくどさん、床の間のある和室、坪庭)
・京町家(詳細な定義については触れない)で洛中にあるもので4万軒を下回った
※日本の大都市でこれだけの伝統建築が残っている都市は京都だけ
・毎年2%程度のペースで倒壊が進んでおり減少傾向に歯止めがかからない。特に大型町家の倒壊が顕著
・伝統構法での新築は容易ではなく、増加の可能性は今の所ほぼない(構造の考え方が在来建築とは根本的に異なるため。)
〇利用用途の広さ
・住宅系では住宅から始まり、貸家(賃貸投資として)、セカンドハウス
・事業系では店舗、事務所、宿泊施設(一棟貸し、旅館)、さらには旅館業を要しないマンスリーも登場
〇ニーズの拡大
・八清の集客のインターネット化と商品の進化で当社のリノベ京町家は京都の顧客だけでなく近畿圏、首都圏を中心とした日本全国、さらには世界からの顧客からの支持を集めるに至る
・特に経営層や文化人からのニーズがあり親和性が強く、インターネットやSNS、口コミで広がりつつある
・京町家は高所得者層や文化人を引き寄せる力がある。(移住もしくは別荘、二拠点居住など)
・建物の魅力と資産性に加え、町家・景観保存の文脈での社会貢献につながることが人気の根底にある
・実需以外では第2次トレンドともいうべき富裕層からの新しい投資ニーズ(資産税対策)がある
② 狭小の京町家の需要と経済的合理性
・京町家は経済的に見ても合理的で効率的な建築という事もいえる。建築基準法上は既存不適格建築(建蔽率、容積率オーバーを伴う事がある)扱いになるが、狭い敷地に建物が目一杯詰まっている
・平屋で20〜50㎡、2階建で45~80㎡という延床面積を有する物件の比重が高く、建売住宅ではほとんど供給されない広さ。核家族化している現代のニーズに合う。小型の京町家は特に容積率の消化率が高い傾向
・連棟長屋は建築的にメンテナンスを要する部分が少なく(維持管理すべき壁面が一般住宅にくらべて単純に少ない)、効率的な利用方法ともいえる
・路地奥や再建築不可物件であってもニーズがある。価格が抑えられることも好条件。詳しくは次回
③ 立地の強みと地価上昇との関連性
・京町家が建っている旧市街地(中心部3区)の人気が高く、京都も都心回帰傾向である
・旧市街地に限定すれば20年間は地価上昇傾向が続いている
・地価上昇は宿バブルの影響もあったが、飽和したため元に戻った
④ 建築価格上昇との関連性
・京町家は伝統建築の慢性的な職人不足が業界の問題としてあり、さらには木材価格、建築材料価格の上昇が昨今の問題となっており、再取得価格が上昇し続けている
・木造建売住宅の標準単価と言われた坪55~60万円/坪での分譲は容易ではなく、京町家に関して言えば建売の単価を凌駕する建築価格となっている
・伝統建築の価値や希少性を認める裕福な顧客に支えられていると言える
⑤ 賃料で示される資産価値
・当社では京町家のリーシングにも熱心に取り組んでいる
特に居住向けに改装された物件が投資物件として売れた際に賃貸物件になるが、近隣のマンションや戸建てよりも高い単価で成約している
・賃料水準の高さがリノベーション京町家の資産価値のベンチマークになっている
3.まとめ
上記の5つのファクターを踏まえてまとめます。
京都のブランド化、京町家ニーズの拡大、全国的な日本の不動産価格の上昇、京町家のもつ経済的特性、これらの複合的要因でリノベーション京町家のリセールバリューが高くなっているのではと考えております。
この20年間で土地も建物も高くなっておりますが、日本国民の平均所得は決して高くはなっておりません。
京町家は職住混用の伝統建築であり流通量が限定的であることと、全国、世界の高属性のユーザーを惹きつける根強いニーズがあるため、流通価格の値下がりが少ない(実質的には値上がりしている)のだと推察しております。
区分マンションとの違いで面白いのは、京町家に住むことが目的=建物・デザイン重視であり立地を大きく気にしない層が一定数いらっしゃる事です。
建物・デザインへのこだわり、生活の豊かさに重きを置くユーザーに支持いただいていることが、居住用としても投資用としてもリノベーション京町家を注目いただいているポイントであり、郊外寄りの旧市街地でも高いリセールバリューが出る一因だと考えております。
またコロナ禍になり、流通価格が下落すると見られた予想に反し、不動産市場での物件供給が少なくなったのと、副収入を得るために不動産投資に目を向ける方が増えたという事もあるかもしれません。
世界の不動産の価格水準からすると日本の不動産はまだ割安だと言われますが、市場全体として流通価格が高止まりしている現状があることも含めておきます。
そしてもう一つ付け加えさせていただきたい大切なファクターがあります。
それは八清が20年以上においてリノベーション京町家の認知拡大、技術的向上や流通の質的向上に誠実に取り組んできたことで皆様や市場からブランドとして信頼・認知いただいたことです。
※ここでいう「流通の質的向上」とは、
・安全性を担保するための構造補強と厳しい検査
・景観に溶け込み、住み手目線で企画設計した住み心地のよい商品
を実施・企画することと、
・建物や歴史に詳しいスタッフによる案内、契約時の丁寧な説明
・街や地域の歴史などの情報も充実しているWeb
商品・サービスに対する弊社の努力や工夫をまとめて指しています。
この要因をなくして、八清リノベーション京町家のリセールバリューが高いという結果は生まれなかったのではないかと考えております。
4.最後に
最後になりましたが、私が京町家を中心とした中古物件の再生と流通について考えている事を綴り、本稿の締めとさせていただきます。
① 今後も京町家本来の価値を損なわずに現代の暮らしに合った住宅として京町家を再生し、街並みを守っていきたい。
② 京町家の再生事業を通じて、構造補強を中心とした伝統構法周辺の技術力、施工品質、設計・施工能力を高めていきたい。
③ 日本全国、世界へのマーケットの拡大を通じて京町家の流通をさらに促進していきたい。
これには、近日にリリースされた『 sumor(スモア)』という商品企画の存在が流通を後押しすると考えています。
sumorは住みやすく、貸しやすく、再販価格が下がりにくいという3つの特性をもつ、八清リノベーション物件の認証制度です。
こちらのページにてご確認いただけたら幸いです。
住むに+moreの価値がある『 sumor(スモア)』のページへ
④ 京町家の年代より後の物件についても建物の本質的な魅力を残し、価値を高めるリノベーションについて今後も探求していきたい。
京町家と同様に住まいとしての
・安心(平時において心理的な不安がないこと)
・安全(有事において倒壊させない耐久性があること)
・快適(居心地よく住めること)
そして質感(経年美があること)を大切にし、住むお客様の創造性や感性を刺激する魅力的な住宅を社員と共に創っていきながら新しい暮らしの提案をしたいと考えております。
以上になります。
今後米国の利上げなど世界経済情勢の変化をきっかけに不動産価格の上昇のトレンドが終焉を迎える可能性はあり正直なところ京都市においても100%を超えるリセールバリューがいつまでも続くとは言い切れません。
しかしながら弊社としては引き続き中古リノベーション物件でのリセールバリューを高める努力をすることで、お客様の心や生活を豊かにすることに貢献できたらと考えております。
引き続き、八清の今後の展開にご注目いただけますと幸いです。
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