京都工芸繊維大学との共同研究成果報告

実験名:「面外方向に傾いた京土壁の繰り返し載荷実験」



昨年より1年かけて、京都工芸繊維大学と行ってきた共同研究の成果をこのたび平成30年度日本建築学会近畿支部研究発表会において発表しました。

本研究は京都工芸繊維大学及び、同校デザイン・建築学系の村本真氏の協力の元、 八清からは、暮らし企画部で建築部門を担う波多野哲也・木村隆一が研究員として参加して行われたものです。
その研究成果と意義について報告いたします。



<実験の趣旨>

八清では、平成17年ごろから、京町家(木造伝統建築物)の改修販売を 主力事業として取り組んできました。私たちが行う京町家の改修は単なるリフォームとは異なり、躯体構造を一から見直し、蘇らせるだけでなく、末永く維持できる建物へ進化させることを重点をおいて施工に取り組んでいます。

築70年をこえる伝統木造建築物は、経年変化により柱ないしは壁に傾きが生じている事例が多く見られます。中には2階の居室では、立っているだけで平衡感覚がおかしく感じられる場合もあります。そのような場合、根継ぎや補強柱を入れ、仕口を締め直したり、場合によっては、油圧ジャッキなどを用いて柱の傾きを補正するなど、できるかぎり水平に戻すための修繕を行います。(※全ての改修工事において行なえるというわけではありません。)

今回は、京町家を構成する「京土壁」に着目し、京町家の実情に即した一定条件下の土壁に対して繰り返し載荷を行い、その性能を調べる実験を行いました。



<比較する試験体について>

本研究を簡単に言うならば、壁面と直交する方向(面外方向)に「傾いた壁」と「直立壁」の性能を比較するというものです。実際に私たちが手掛ける京町家の改修工事で得た経験から、適切な補強を行えば壁面の傾きを直立に戻さなくても使用可能な最大斜度を「3度」と設定しました。


  • 試験体A:直立壁 (1体)
  • 試験体B:面外方向に3度傾斜した壁(3体)
  • 試験体C:面外方向に3度傾斜した壁に補強軸組として添え柱をした傾斜壁(3体)

(※参考・・・一般的な地震保険会社による家の傾きの被害認定基準として、0.2度以上0.5度未満が「一部損壊」、0.5度以上1度未満が「半壊」」、1度以上が「全壊」とされている。(企業ごとで差は有る))



これら3種類の試験体を製作し、同じ条件のもと繰り返し載荷をおこない、試験体の耐力を比較していきます。




  • (左)試験体

  • (右)補強軸組の添え柱を取り付けた試験体


左端が傾斜角3度+添え柱の試験体C

<試験体の製作>

試験体の製作は、大工職人により、実際の京町家で基準となる寸法で軸組が組み上げられました。 続いて左官職人により、竹小舞が編まれ、荒壁塗り→乾かす→中塗り→乾かす、という3ヶ月間の工程で準備が進められました。




  • 左官職人による小舞掻き
    (佐藤左官工業所 佐藤ひろゆき氏)

  • 荒壁塗り(裏返し)

  • 中塗り

<実物大実験>

載荷・計測装置に順に試験体を設置。加力装置で、小さな角度から大きな角度まで徐々に載荷していきます。


試験体C:載荷開始前


試験体C:載荷終了


試験体C:載荷終了


試験体C:載荷終了

(結果)

全試験体に同様の載荷実験を行い、得られた結果をまとめると以下のようになりました。



  • 京土壁の傾斜角が3度程度であれば、直立壁と比べてもおおむね同等の耐力がある
  • 添え柱による軸組補強は土壁の耐力を向上させる効果がある
  • 3度傾斜壁の場合、壁倍率及び壁基準耐力は直立壁と比べても同等である


つまり、多少傾いた壁であっても一定の耐力があり、また、添え柱による補強に意味があるということになります。

もちろん、一定の条件下で新しく製作された試験体であるため、様々な環境下で月日をかけて経年変化する実際の土壁と必ずしも同じというわけではありません。しかし、この実物大実験は、八清が長年培ってきた傾いた壁に対する補強工事についての判断は妥当であり、また、添え柱による構造補強に効果があったことを確認することができました。今後の補強工事の指針となることに間違いないと私たちは確信しています。



村本氏より実験結果の説明を受ける様子

本研究に対する取り組みは京都工芸繊維大学と、同校村本真氏との共同研究によるものです。実験では京都工芸繊維大学高度技術支援センター技術職員の小山清司、四方利和の両氏、同大学院生、学部生に協力を得ました。また、京都工芸繊維大学の森迫清貴学長からご助言を得ました。試験体は、軸組をアーキスタイル加藤圭介氏と職人の方々、左官を佐藤左官工業所佐藤ひろゆき氏と職人の方々、京都左官専修学院の佐伯護氏と学院生に製作していただきました。皆さまには多大なるご協力をいただきましたこと、深く感謝いたします。




共著論文 「京都工芸繊維大学面外方向に傾いた京土壁の繰り返し載荷実験」
日本建築学会近畿支部 研究報告集,第58号:構造系,pp.505-508,2018.6

報告をご覧になりたい方は問い合わせフォームよりお問合せください。
(※冊子をご郵送させていただきます。)

なお、2018年9月に日本建築学会大会においても発表予定です。

2018年7月