第1回町家リノベーションアイディア募集
完成インタビュー
作品タイトル「鉢としての家」で金賞を受賞された、岡 航世(オカ コウセイ)さんにコンセプト企画、デザイン監修していただいた京町家が完成しました。
金賞受賞者の岡 航世さん、設計の監修をお願いしたBee design factory一級建築士事務所代表 成田 和嗣(ナリタ カズシ)さんに、改修が終了した「鉢としての家」についてのお話を伺いました。
第1回 町家リノベーションアイディア募集金賞受賞 岡さん
アイディア募集に参加しようと思ったきっかけを教えて下さい。
岡さん:せっかく京都で建築を勉強しているので、京都の生活、町家について考えてみようと思っていた時にこの企画を見て「実現性よりも新しいアイデアに重きを置いたものを期待する」とあったので、当時大学三回生の僕には挑戦しやすいものだったので応募しました。
企画を見つけてからなんとなく考えながら過ごしていて、思いついたものをそのまま出したので、作業時間自体は10時間もかかってないくらいだったと思います。
「鉢としての家」完成写真
作品テーマへの経緯
岡さん:盆栽自体は幼少期から祖父の家の庭で余った植木鉢などで作っていました。完全に自己流ですが。コケや木が小さな植木鉢に凝縮されていくのが好きでした。
それからそういった関心とは別に(並行して)、建築を学び始めてからは、大きな眺めるような建築の美しさよりも、ほとんど家具や道具に近いような感覚で触れられる空間が好きで、町家もそうだし屋根裏部屋なども同じ感覚がします。
(机の下にもぐるのが好きだったり、小学生のころから小さな秘密基地を町のいろんなところに作っていたのを思い出しました。)
盆栽と小さな空間への興味が並行してある中で、また盆栽について考えてみると、あれは元々人よりもずっと大きな木を、せいぜい机に乗るサイズに縮小していて、スケールダウンするときに凝縮された面白い空間ができるようなことかなと思いました。
もしそうなら、元々木の下で休んでいた人も同じように縮小されて、盆栽の中に入りこめたら良いなと思ったんです。そうやって盆栽のイメージで空間を設計することになりました。
建物プラン打合せの様子・写真中央:Bee design factory一級建築士事務所代表 成田さん
こだわった点、苦労した点
岡さん:苦労したのは金賞を頂いた案が、建築的な知識不足とそれからセカンドハウスとして販売するということに大して、植物をたくさん使っていたので維持管理が厳しいという点でした。 考えていたことを空間だけで成立させるのが難しかったです。
1番難しかったのは建築がどのような工程で、どのタイミングで誰の判断が入って決まっていくのか、その全体像を知らないままに始まったので、
いつ何を考えたらいいのかわからないのが厳しかったです。
もちろんスケジュール表はもらっていましたし、八清さんの社員さんや、成田さんは色々と教えてくださるものの、どれも実感がないので判断を先延ばしにしてしまったりしていました。
岡さん:こだわった点は、元々家具的、道具的に建築を使いこなすような感覚が欲しかったので、大きな流れの中心になる階段空間の周りに小さな居場所を散りばめられたのがよかった。
大きな空間から逸れた、とても良い意味での部外者のような空間をこだわって作れたかと思います。おかげで竣工検査(※)でいろんな人の意見が飛び交っている時、僕に答えられない範囲の話になるとそういった空間に逃げることができました。(笑)
(※)竣工検査とは、リノベーションが完成したら行う、八清の企画担当や建築担当、設計士、工務店などが集まり出来上がりを確認する検査。
木部の塗装、窓枠の色などはお願いしてゆっくり決めました。木部は階段の板や玄関の天井が良い色だったので塗装したくない。だけど、柱は塗った方がいい。そのちょうど境目の柱一本を塗るべきなのか、クリアのままが良いのか、見るまでは判断できなかったので、その柱一本だけ塗装せずに残してもらい、その状況を確認して、塗るべきだと思ったので塗装をお願いしました。
窓枠は僕以外全員が黒色で目立たないようにしたいと話していて、今でももしかしたら納得してもらっていないのかもしれませんが、シルバーを選びました。
理由は、北側からはあまり光が入ってこない中で、小さな窓たちにはふんわり光っていて欲しかったからです。シルバーなら窓枠付近でたくさん反射するので、それがうまくいくと思いました。実際、思っていた光になったので良かったです。
成田さん:今回の仕事は通常の依頼とは違い、岡さんと八清さん(施工側)の間に入って業務を進めるパイプ役のような、あまり経験のない立ち位置でした。その位置を保つことがこだわったことであり、苦労したことかもしれません。
特に気を遣ったのは、岡さんが将来を夢見る学生さんであったため、今回の経験でそれを辞めてしまうマイナスな思考を生まないようにすることでした。
学生時代はやはり自由な発想で好きなようにできる楽しい時で、それが社会に出ればイヤでもそのギャップに悩まされます。現実をどこまで岡さんに見せるかも勉強かと思いましたが、今はまだできる限り楽しんで欲しいなという思いで関わることにしました。
だからと言って、八清さんの立場からすれば、商品としての観点から岡さんの要望を全て叶えることは難しいので、彼のイメージをできる限り反映して具現化しつつも、現実的な要素を考慮して業務を遂行しました。
要所要所で岡さんの意見を前に出しながらも、思わず意見を言ってしまって、僕の思考に引っ張ってしまったこともあり、それは少し反省しています。
「鉢としての家」完成写真
出来上がった住まいへの感想
岡さん:当初から大切にしていた感覚を実現できたように思っています。部分的に人一人分のスペースが設けられていたり、また別の空間には天井の高い空間があったり、小さな京町家の中で最大限のスケールの差があるように空間が構成されていて、そのコントラストが強いおかげで、小さなスペースから家の中を俯瞰してみると、どこか遠くを見ているような気分になります。
大きな空間の構成要素だけを拾い上げるとそれらの小さなスペースは対して重要ではなく、もはや盲点くらいのことかもしれませんが、いざ自分がその空間に身を置くと家の中のこと、庭のこと、さらにその外のことまで想像しながら感覚を把握できる。そういう関係性の外側から俯瞰する感覚が家の中にあるのは不思議です。
人だかりから抜けたところで、その混雑を眺めたりするような避難に似てる感覚で小さな空間をつかいこなせるような気がしました。今日も、竣工前検査で様々なことを言われているとき、気づいたらそういった小さな空間に逃げ込んでいましたし。
成田さん:率直に良い出来だと思います。
特別なプロジェクトだったことで予算も多めに見ていただいたこともありますが、岡さんの発想と融合して雰囲気のある空間に仕上がったのではないかと思っています。
将来はどんなことがしたいか
岡さん:今回の経験を踏まえて話すと、設計の期間中、解体前から現場で設計を考えて、これから作る空間について目まぐるしい妄想や、どうにも上手くいかないいろんなことをたくさん考えました。さんざん考えた後に、扉を開けて外に出ると、さっきまでのことは何だったのかと思うぐらい現実に引き戻される感覚があったのが僕にはとっても新鮮で、この小さな建築の中でさっきまでのいろんな妄想が膨らんでいたのかと思うと、そのギャップみたいなものが空間を体験するということの面白さそのものなのかもしれないなと思いました。
でも、これはもしかすると現場に通える作り手だけの特権かもしれないなと思うともったいなくて。もしも、建築や家具の設計一つで、それを使う人がその周りの世界の見え方がガラッと変わってしまうような、そういう仕掛けを死ぬまでにいくつできるかなということを最近は考えていますし、将来どのような仕事がしたいか、ということに直結します。それからそういう感覚がもし日本人特有の感覚だったりするならば、日本人だからできる仕事を海外でもできると良いなと思ったりしています。
今は京都工芸繊維大学の旧正門、門衛所(本野精吾設計、登録有形文化財)の利活用に向けて、学生営繕課として「門衛所プロジェクト」を主宰し、約50人の学生と教員で取り組んでいます。
それからお世話になっている長坂先生の下では長坂先生の「地球のリノベーション」という言葉を読み替え、「キャンパスのリノベーション」として、苔むした駐車場や、木陰に、ちょっとした仕掛けをして、普段なら皆通り過ぎてしまうような空間に違和感を造ったりしています。苔むした駐車場は小さなお庭に見えたり、木陰に茶室があれば、それもまた造られた庭園に見えたり。
門衛所プロジェクト、キャンパスのリノベーション共に、既にある身の回りのモノ事の見方を変えるきっかけとしての仕掛けを設計するような感覚で行っています。
門衛所プロジェクトのインスタグラム
将来は建物の規模に関わらず、そういった設計一つでモノの見方が変化するような仕事ができればと思います。
岡さん、成田さんありがとうござました。