chapter03prologue:路地を楽しみたい
京都市の都心部にたくさん継承されている袋路。
利便性が高いにもかかわらず、昔ながらの景観や暮らしが継承されている希有で豊かな場所。
一方で高経年の木造建築の集積や道の狭さなどから、災害時の延焼や避難の危険性が指摘されています。
なぜこの空間が継承されてきたのでしょうか。
理由の一つに基準法制定以前に既に存在していたことから「既存不適格建築物」に該当することがあります。
建物を大規模に修繕などする際は現在の法に適合させる必要があり、容積や防火上の配慮など限られた敷地で建物の性能を向上させることが必要になります。
加えて、路地の中では建築基準法で定める接道条件を満たしていないことがあります。
家の前の通路が通り抜けできれば、建物をセットバックすることで建替えも可能になりますが、限られた敷地ではこれが困難なことが多いです。
袋路の場合は、京都市では「再建築不可」となります。このため、建物の大規模な改修や建替えができず、建物の老朽化が進んでいます。
建物の更新が進められないことから、規模や設備など現代生活のニーズに合致せず空き家化が進んでいることもこれに拍車をかけています。
この路地空間を、まちに継承された資源として活かすことはできないでしょうか。
課題を解決・緩和すれば、利便性の高い立地に住まいの選択肢を増やすことができるのではないでしょうか。
現在の京都のまちが抱える課題を緩和する「種地」として活用できないでしょうか。
現在の京都市が抱える課題として、若い世帯の市外流出があります。
その理由の一つに若年世帯が都心部に住まいを求めることが難しくなっているからです。
理由は様々にあると考えられますが、その一つに地価の上昇により手頃な賃料や価格で住まいを見つけることが難しいことがあるでしょう。
そのために住まいを周辺部に求める傾向が続いています。
京都市の調査によると、25歳から39歳の転出超過が顕著で、0歳から4歳の子どもも転出が見られる傾向があることから、若い世代が結婚・子の誕生というライフステージの変化の時に、手頃な住宅を求めて周辺市町へ転出している傾向があるようです。(※令和4年12月15日発表京都市の人口動態について(総論))
私たち、都市居住推進研究会と事業主である㈱八清では、この課題に着目し「路地は子育て空間に向いているのではないか」という仮説を設定し、その可能性を検討してきました。
しかし、そのためには様々な課題があることがわかりました。
これを実現するためのハードルを整理すると、以下の通りになります。
- 袋路は再建築不可であり、敷地単位での建物の建替え・大規模修繕が不可
- 小規模な修繕をかさねて住み継いでも、規模の面で現代生活のニーズにそぐいにくい
- 外から路地の雰囲気がわかりにくい
- 通風や日照の面で十分でないところもある
- 袋路内は比較的地価が低く価格や賃料面ではコスパが高いが、それを生かせていない
- 路地は子育て環境に向いている場所も多いが、マッチングができていない
- 工事費が高くつく。また引き受けてくれる工務店や大工さんも限られる
- 袋路を取り巻く法律や制度が多様にあり、精通した専門家が多くない
- 所有者不明地や相続人不在地が存在していることがある
- 上記により調査や調整に時間と手間がかかる
- 特例許可を得て工事をすることもルートとしてはあるが、手間と時間がかかる
そうなのです、たくさんのハードルがあるから、結果として現在まで継承されてきたのです。
2000年頃、京都市内ではたくさんの京町家が解体され開発されてきましたが、袋路の中では今でも多くのものが継承されています。
歴史的な建築物やその空間の価値が再評価されている今だからこそ、これらが集積している袋路に着目することが大事ではないでしょうか。
現代の価値観だけで都市を改変するのではなく、未来へ選択肢を継承することが大事。
そう、それは京都で暮らした先人たちが既にやってきたことです。
その精神を引き継ぐことが、京都の価値を継承することにも繋がると考えています。
たくさんのハードルがあっても都市を住みこなしていく。
それは、京都のまちを楽しむこと、そして路地を楽しむことにもなるのではないでしょうか。
なお、本プロジェクトは袋路内にできた空き地に住宅を新築する事業であり、建物のリノベーション事業ではありません。
しかし、袋路に継承されてきた知恵や文化を継承し、新しく再構築する取組であることから、袋路を未来に継承するスタイルの一つであると考えています。
都市居住推進研究会 事務局/京都光華女子大学 准教授/スーク創生事務所代表大島 祥子
京都のまちづくりの縁の下を担いたいと日々研鑽しています。
一級建築士/技術士(建設部門)/宅地建物取引士/博士(学術)