chapter09個別解でも一般解でもないけれど汎用性はある。いろんな展開に期待。

このプロジェクトは、建築基準法第43条第2項第2号に基づく特例許可を受けて成り立っています。
というのも、プロジェクトの対象敷地はいわゆる「再建築不可物件」だったからです。
では、その課題をいかにして乗り越えてきたのか。
この章では、法的な観点からプロジェクトの意義を見ていきます。

建築基準法では、避難安全性等の観点から、建築物の敷地は建築基準法上の道路に2m以上の幅で接していなければならない、そして建築基準法の道路は原則として幅員が4m以上必要と定められています。
しかしながら、京都市内にはそれに該当しない道、いわゆる細街路がたくさんあります。
市の調査では、その数12,960本、延長にして約941kmとされています。(2012年「京都市細街路対策指針」より)
ただし、それらがすべて再建築不可というわけではありません。
幅員1.8m以上の通り抜けの道は、建築基準法第42条第2項の「みなし道路」として敷地後退を条件に再建築が可能です。
また、幅員1.8m以上の袋路は、敷地後退に加え階数は2階までといった条件が付くものの京都市の許可基準に基づき特例許可を受けることができます。
問題となるのは幅員1.8m未満の道です。
建築基準法の道路に該当しないことはもとより、これまで特例許可の対象ともされてきませんでした。
本プロジェクトの対象敷地はまさにこれに当てはまります。

そのようななか、京都市では2012年に細街路の状況・特性に応じた実効性の高い細街路対策を総合的に示す「京都市細街路対策指針」を策定し、幅員1.8m未満の道についても安全性の向上が見込める場合は再建築を可能とする方針を打ち出しました。
本プロジェクトは、その方針のもと、京都市の担当課、京都市建築審査会、そして路地内にお住まいの既存住民の方々と長きにわたり協議を重ね、様々な課題に対応してきた結果としてあります。

では、具体的にどのような課題をどのように乗り越えてきたのか。
まずは課題をあらためて整理すると、以下のとおりとなります。

  1. 袋路であり、建築基準法上の道路ではない。
  2. 特例許可を受けようとしても、通路の現況幅員が1.8m未満であり、京都市の許可基準に適合しない(市の許可基準では1.8m以上必要)。
  3. 上記がクリアできたとしても、京都市の許可基準では建替え後に通路幅員を4mに拡げる必要があるため、敷地が大幅に削られ、それに伴い建物規模も小さくならざるを得ない。
  4. たとえ現状のまま建替えられたとしても、袋路のままでは一方向にしか逃げられず、実態的な避難安全性に懸念がある。

そして、これらの課題に対しては、特例許可の適用を前提に、避難安全性など防災性の向上を図るため次のような取組を行いました。

  1. それぞれに1.8m未満の2つの袋路を繋ぐことで双方の2方向避難を確保
  2. 通路幅員は対側地から3mとし、さらに通路境界線から外壁面を1m後退することで4mの避難空間を確保
  3. 自転車置場を一か所に集約設置することで、通行上支障となる物の通路への溢れ出しを防止
  4. 新築建物は準耐火建築物とすることで延焼危険性を低減
  5. 早期に火災危険性を確知するため各戸に連動型火災警報器を設置

これらの取組は、一般的な基準に拠ることなく、本プロジェクトの敷地や事業の趣旨など、個別かつ具体的な状況に即して、ひとつひとつ検討を積み重ねてきたものです。
とはいえ、京都市内には同様の課題を抱える路地がまだまだたくさん存在します。
(細街路のうち幅員1.8m未満のものは3,410本あるといわれています。)
それらについて、法的な基準に合わないからといって空き家や空き地のまま放置することが続けば、防災面や防犯面の問題が生じるだけでなく、なによりも貴重なまちなかの居住空間をみすみす放棄することになるでしょう。
それは京都のまちにとって大きな損失といえます。
本プロジェクトの取組は確かに個別解かもしれません。
けれども、防災性の向上を図りながら路地空間を有効活用する考え方は他の路地にも十分に応用できるものと考えます。
本プロジェクトがきっかけとなって、ひとつでも多くの路地の再生がより良い形で進むことを期待しています。

都市居住推進研究会 事務局長/株式会社ミネ 代表取締役社長高木 伸人

六畳一間の間借り、長屋、団地、戸建て等々、多様な住宅での居住経験は宝物です。