chapter14ここが見どころ、建築計画

街区の北側からと東側からそれぞれ伸びていた二本の路地が、火災により繋がった状態になっていました。
今回の計画ではこの二本の路地を、蹴破り戸を介して繋げています。
これにより火災などの緊急時には、街区の中央から道路まで、二方向の避難経路が確保されます。
同時に、日常では、京都に数多くある路地と同様の行き止まり路地となることで、通り抜けての通行がなくなり、安全性やプライバシー性が高まり、路地が子育てを含む生活し易い環境となることが期待されます

出典:都市居住推進研究会

4軒で1棟となる建物は、京都の伝統的な街区中央での建ち方を踏襲して、小さなボリュームとなるよう高さを低く抑えた切妻平入型とし、路地に合わせて雁行させることで変化をつけています。
変化をつけたことで、4軒の住戸(北からAタイプ、Bタイプ、Cタイプ、Dタイプ)でも、北側2軒と南側2軒とではプランが少し異なっていますが、1階にいわゆるLDKと水廻りを設けて、2間続きの個室を設けているところは共通しています。

1階のLDKは路地側のオモテから狭小な裏庭側のウラまで抜けるよう細かい納まりなどを工夫しました。
この抜けも、伝統的な路地奥の長屋のプランを踏襲したものです。
ただし裏庭を小さな面積に留め、路地側の庇下空間を大きくとるように建物を配置し、日常生活の様子が、裏庭側ではなく路地側に溢れるようにしています。

出典:都市居住推進研究会

2階は裏庭側の板間と路地側の畳間の2室で構成されており、日常生活における多様なアクティビティを許容する畳間は、子育ての場としても活躍することが期待されます。
2階は1階と違って、プライバシーを確保すべく開口の面積も抑えていますが、畳間からは路地に向けて花台と物干しのスペースが設けられていて、ここでも生活の様子が裏庭より路地の方に醸し出されることが促されます。

2階の上部には、切妻屋根による勾配天井の天井高さを活かしたロフトが設置され、大容量の収納スペースとなります。
また、水廻りや収納を除く建具は引き戸を基本としていて、開けたままにも閉じたままにもし易いようにしています。

この4軒の長屋ですが、壁を共有していると同時に共有していません。
どういうことかというと、柱と壁が二重になってくっついています。これによって防音性能が高まり、住戸間のプライバシーも確保されます。
このような仕掛けによってこの路地は、路地らしい生活空間としての場所性は継承されつつ、建物は少しずつ変わりながら時を経ていくのかもしれません。

魚谷繁礼建築研究所/京都工芸繊維大学(特任教授)/京都大学、京都府立大学、京都建築専門学校(非常勤講師)/都市居住推進研究会魚谷 繁礼

著書に『住宅リノベーション図集』(2016/オーム社)、『魚谷繁礼 建築集』(2024/TOTO出版)など。プロジェクトに『京都型住宅モデル』(2007)、『郭巨山会所』(2022)など。受賞にJIA新人賞(2020)、京都建築賞最優秀賞(2021)、関西建築家大賞(2022)、日本建築学会賞(2023)など。