chapter15室内から広がる路地空間、路地空間とつながる室内空間

この長屋の一番の特徴は、路地に向かって大きく張り出した庇と、路地に向かって大きく開く1階の大開口です。

この大きな庇の下の空間は、路地の各住戸の間で緩衝の役割を果たすことが期待されます。
街路から幅の狭い路地を入り、奥で幅が大きくなる路地空間を、庇下空間が更に拡張させ、通行に留まらない路地空間でのアクティビティの可能性を拡げます。

1階の大開口は、開け放すと、庇下空間を介して、住戸内部と路地とが繋がります。
これにより、生活が住戸内に留まらず、庇下空間から路地へと溢れ出すことが期待されます。
この大開口は、ガラスに格子が取り付けられた形になっていって、夜などには、格子によりプライバシーが確保されつつ、ガラスから漏れる内部の光により、住戸内の様子が少しばかり路地に醸し出されます。

BタイプとDタイプの住戸のLDKの床は、庇下空間と近い高さのタイル貼りで仕上げられており、大開口を開け放すと、路地と庇下空間と住戸内が近い高さで一体化します。
AタイプCタイプのLDKの床は、庇下空間から30cm程度上がった高さで板張り仕上げとしており、大開口を開け放ち、子供も大人もこの床に腰掛けられる高さになっています。

路地の大部分は豆砂利洗い出し仕上げとなっていますが、部分的に土を現わして植栽が施されています。
この植栽は、これからこの長屋や路地の居住者によって、どんどん個性的かつ魅力的な植生へと移り変わっていくと思います。

魚谷繁礼建築研究所/京都工芸繊維大学(特任教授)/京都大学、京都府立大学、京都建築専門学校(非常勤講師)/都市居住推進研究会魚谷 繁礼

著書に『住宅リノベーション図集』(2016/オーム社)、『魚谷繁礼 建築集』(2024/TOTO出版)など。プロジェクトに『京都型住宅モデル』(2007)、『郭巨山会所』(2022)など。受賞にJIA新人賞(2020)、京都建築賞最優秀賞(2021)、関西建築家大賞(2022)、日本建築学会賞(2023)など。