ものづくりご夫婦を訪ねて

2018年1月 雪降る寒い日

靴職人×設計士 ご夫婦にお会いしてきました。

坂道をテクテク歩いて、ご自宅に向ったわけですが、雪…雪でした。

ピーンポーン。奥さまとご主人お揃いでお出迎えしてくださいました。
あれ!?玄関からあたたかい+.゚+.゚ しかも間仕切りの扉が無い…。
そう、この家は、どこの部屋、いや、トイレまでも暖かいお家なんです!
暖かさの秘訣は、床にあるスリット。
1台のエアコンを図のように設置し、気密性を高めた床下に暖かい空気を送り込みます。
床下を通って、各部屋のスリットから暖かい空気が上がってきます。
トイレにも同じようにスリットがあるので、トイレまで暖かいんですね。

「いらっしゃい、こんにちは~」
「こんにちは~。今日は、メディアデザイン部の河野も一緒です。もしかしたら河野とは去年、町家 de マルシェ で新さん(奥様)とすれ違っているかもしれないですよ?!」
「そうなんですね!もしかしたら去年会っていたかもしれませんね!」笑
「今日は、よろしくお願いします。」

ご主人は、デザイン事務所DICETTA(ディチェッタ) 酒井 敬洋(さかい あつひろ)さん。
八清でもおなじみの「fikaso(フィカソ)」シリーズを、落海と共に手掛けている設計士さんです。
落海とは名コンビで、これまで数々の素晴らしい建物を生み出してきました。

【 fikasoシリーズ 】
fikaso#01 アトリエ7.77(2013年)
fikaso#02 居心地のよさは開口部のそばに宿る(2014年)
fikaso#03 内はそと 外はうち~(2014年)
fikaso#04 泊まるように暮らす(2017年)

奥様は、酒井 新(さかい あらた)さん。
hamandcheese」と言うブランドを立ち上げ、 靴やバッグなどの制作活動をされている靴職人さん。
最近では、忙しくなったご主人のお手伝いで、建築CADも使いこなす、とっても器用なお方。

今回は、このお二人とお話をしてきました。
お話を聞く前に、ご主人が設計をしているスペースと奥様が靴づくりをしているスペースを見学させていただきました。
2階に上がると、開放的な空間に、ご主人のデスク。奥に進むと奥様の靴づくりのアトリエがあります。いずれも窓から見える景色がとても素敵!


  • ご主人の仕事場

  • 奥様のアトリエ

「新さんが靴職人をやることになったきっかけは何ですか?」
「もともと靴メーカーに居たんですけど」
「そもそも大学では靴の勉強してたんだっけ?」
「大学では、プロダクトデザインを専攻していて、家具とか車とかのデザインに進みたかったんだけど…。卒業して、なかなか就職できなくて…。」
「就職先探しに東京でも行くかなぁ~」って



 (一同笑)
「凄い行動力ですね。」
「同じプロダクトデザインの友達4人で車に乗って東京出て、そこで一軒家借りて、4人でシェアしまして。」
「それぞれバイトしながら就職活動していたんだけど、なかなか決まらなくて…。」
「なんか、もっとやりたいことやった方がいいんじゃないかぁ!?って思っちゃったんですよね。」
心の声「そう思ってて、実際に行動に起こしちゃう新さんに、感動!かっこいい!」
「もともと靴は好きだったんですよね、小さい時から。ファッションってやっぱり靴がいちばん決め手かなぁと勝手に思ってて。」
「靴の形が好きで。造形美というか、人の体を覆っている形なので、もともときれい。そこに凄い惹かれてて、靴勉強しようかなぁ~と思って!」
「靴といえば浅草なんですよ!」
「そうなの?へぇ~知らなかった!」
「靴業界としては全国1位なんですよ!浅草。」
「それで、浅草の道を歩いて、色んな人に”靴やりたい!”って話しかけたんですよ。」
「そしたらある人から、いい学校あるからって教えてもらって」
「早速学校に突撃してみたら、その学校が良かったので、そこで勉強することになりました。」
「これが靴をはじめたきっかけですね。」
「もともと靴の形に興味があったので、木型を削る人になりたいと思って、専門学校を卒業した後、4年間、木型を作る会社で働きました。」
「資格とかあるんですか?木型職人って。」
「無いんですよね。ドイツとかはあるんだと思います。マイスター制度が。」
「次に、靴を手で作る工房で2年間。その後は、神戸の靴メーカーさんに入ってデザイン企画として、パタンナー兼デザイナーとして働いていました。」
「その頃(2009年)に、僕と酒井さん(ご主人)は、出会ったんですよね!」
「酒井さんは、前職(3Dグラフィック制作会社)の上司にあたる人で、僕は酒井さんに採用されたようなもの。」笑
「あの面接が最初の出会いだよね~。」
「随分前から出会ってたんですね。」

( 当時の面接の時のほんのひとコマ )

「質問ひとつだけいいですか?好きなデザイナーとかいたら教えて下さい。」
「深澤 直人さんです!!余白の作り方が云々かんぬん…」

( 面接後の酒井さんと社長の会話 )

「社長!あの人面白いんじゃないですかね?」の一言で採用することになったんですよね。
「僕も深澤 直人さんのデザインが好きだから。」
「ある意味fikaso(フィカソ)の活動は、そこからもう始まってたかも!?」
「僕が先に八清に転職して、 酒井さんはその後独立して建築士やって」
「前職の時から、2人で何かやりたいね?って話はしてて、それが何年か越しにひょんな形で叶うことになり…。」
「感性がすごく似てたんで、2人して”良い”と思うものを基準に作ったら、それは独りよがりではなく、少なくとも2人よがりになるので、絶対良いものができる!って思ってて。」
「最初のプロジェクトは、わずか7.77坪の平家『アトリエ7.77(2013年)』これが2人のデビュー作。」
「そこからは、ほぼ途切れること無く、ちょっとずつ、毎回新しいことを取り入れよう!と自分達に負荷かけながら、今に至っている感じ。」
「そう!そう!そう!前職時代は2人で毎週水曜日にテーマを決めずにランチミーティングしたりして。(ブレストのような会議)つねに何か面白い事ができないか探してた感じで、それが今につながってきてるから人生は面白い。」
「4、5年やってるから、もう意思疎通が楽。酒井さんにちょっと伝えたら、すぐにそれを汲みとった答えが返ってくる、みたいな。良いと思うものが一緒なので、そこは速い!」
「あれ?今日なんの会だっけ?いつの間にかfikaso(フィカソ)の話になってるし。」笑



 (一同笑)
「でも、今日はfikaso(酒井さん)の取材も兼ねてるからOKでは!?」笑
「4割ぐらい奥さんの靴の話聞いてから、凄いナチュラルに、 fikaso(フィカソ)の話になってね。(落海氏が)凄い饒舌に喋るから、遮りづらくて…」
「すいません…」笑
「話が、イッタリキタリしちゃうけど、新さんの話の続きを聞いてもいい?」笑
「それから結婚して、子供が生まれて、仕事をやめることになって」
「そして、大山崎に住むことになったんだけど、近所に靴の仕事をする場所が無かったんですよね。技術はあるし、じゃあ自分でやろっかなぁ?って思ったのが独立のきっかけでした。」
「その当時は、僕が1階で設計して、奥さんが2階で靴づくりしてて。2人とも居住スペースと仕事場をまさにイッタリキタリしてたんだよね。」
「その家がまた寒かった!だからいっぱい勉強して、色々探して。」
「ずっと探してたら、たどり着くんだよね、探してた人やモノに。おかげで今では、暖かい家に暮らせてる。 今後もこの手法(冒頭の説明)は、fikaso(フィカソ)のプロジェクトでも採用したいよね。 ただ、町家は新築と違ってこの手法を取り入れるのが難しいから、それが今後の大きな課題だよね?」
「実際に、酒井さんはこの暖かい家に住んでるから説得力もあるよね。 特に冬の寒い時期に、これを実際に体感しちゃうと、もう後には戻れない居心地のよさっていうか。これを何とか町家でも適用できるように進化させたいよね!」
「このレベル(温熱環境)を住宅のスタンダードにするべきだと強く思う。経験と知識が蓄積されて、周囲の環境も整い始めてきているので今後のfikaso(フィカソ)プロジェクトに注目いただければと思います!」

二人の暮らしぶりを聞いてると、丁寧かつ素直に暮らしていて、だから進むべくところに自然に進めていて、 色々な経験や人との出会いが積み重なり、今の暮らしが出来上がってるんだなぁ~って感じました。
何かに対する"強い想い"を持ち続けることで、同じ想いの人が重なった時に、一瞬にして化学反応をが起こり、面白いことが生まれるんじゃないかなぁ~。

イッタリキタリの家には、趣味や仕事部屋をシェアして、エントランスで小さなお店でもOPENして暮らす人なんかどうかなぁ~?と電車に乗りながら妄想する落海&河野なのでした。