造り

建築基準法と京町家の構造

京町家が現代の建物と異なる最大の点、それは「伝統構法」で建てられていること。戦後の復興にともない、建物を建築する上での法律として、昭和二十五年に「建築基準法」が制定されました。「建築基準法」とは、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低限の基準を定めたもので、戦後の社会情勢の大きな変革の中で生まれました。飛躍的な技術革新と新法の後押しにより住宅が大量生産される時代がやってきます。

しかしながらそれまで主流であった伝統構法は、新しい基準にそぐわない点が多く、従来の構法による新築が不可能となり、技術革新によって生まれた「在来工法」が表舞台に登場し現在に至ります。

そのため、新法が制定される以前に建てられた「伝統構法」の京町家は現行の法律に合致しない「既存不適格」という立場を強いられることになります。従い、一度壊してしまうと、再び昔ながらの構法で新築することは叶いません。但し、改修することにより使い続けることは可能です。然しながら、先人が智恵を凝らし手間暇をかけた伝統の技術を再現することは難しく、専門的な知識と技術を要します。伝統構法は、筋交いや金物に頼らない、柱や梁などの木組みにより耐力を生み出すもの。京町家を将来に渡り残していくには、伝統構法に適した改修技術を培わなければなりません。

構法

伝統構法

長い年月をかけて培われた建築技術

土台と基礎石が緊結していない。建築基準法制定以前から存在し、筋交いや金物に頼らす、柱や梁などの木組みにより耐力を生み出す方法。

在来工法

従来からある工法を母体としながら、建築基準法などの制定や技術革新により新たに生まれた現代主流の工法。コンクリート製の基礎があり、基礎と土台が金物で緊結され、柱と柱の間に筋交いを入れ、プレート金物などで止めつけて地震力に対抗する。

基礎

現代の工法と決定的に異なる京町家たる所以

伝統構法が石場建てとも呼ばれる大きな特徴。単独の柱が乗っているものは「一つ石」、表の間口方向の壁を受ける延石は「葛石(かづらいし)」と呼ばれる。これらの基礎の上に構造部が置かれているだけで、緊結されていない、現代の布基礎と言われるような一体型の基礎とは大きく異なる点である。

一つ石

葛石(かづらいし)

仕口・継手

寸分の狂いも許されない繊細な「技」の域

柱や梁などの接続部において金物を用いず、二つの部材をつなぎとめる方法。材と材をこみ栓や車知(しゃち)などでつなぐものを仕口(しぐち)、断面同士を合わせつなぐものを継手(つぎて)と言う。特に継手は接合部分の形状は様々で、施工部分に適した方法を用いる。その種類は六十種類と言われ、代表的なものには、追掛大栓継ぎ(おいかけだいせんつぎ)、金輪継ぎ(かなわつぎ)、台持ち継ぎ(だいもちつぎ)などがある。

(写真右)交差する柱と梁をこみ栓でつなぎ止める仕口

(写真左)柱の痛んだ部分を取り除き新しい材で継ぎ足す「根継ぎ」という、伝統的な修繕方法

呼吸する土・竹・藁

京町家の壁は竹と土と藁でできている。水と練った土に藁を混ぜよく寝かせたものを、竹で組んだ下地に塗り込む。数度の重ね塗りを経て、仕上げには聚楽や漆喰など自然の素材を用いる。化学製品を用いない土は、吸湿効果が高く、気候に応じて湿気を出し入れする。また、壁が傷んだらこの土を練り直して補修に充てられる。