西陣織屋建の家

環境や社会への配慮を考えながら企画するリノベーション京町家「エシカルハウス」では、地域産材を利用することで、「地産地消」や「地域貢献」への取り組みを考えています。

今回その中の1つとして検討しているのが、「竹紙」の取り入れ。

古くから織物に携わる多くの人々が暮らし、伝統とものづくりの精神が息づくここ「西陣」で「竹紙」を手作りしている方がいらっしゃると聞き、早速お話を伺いに行ってきました。

竹紙

西陣の風情をたっぷり含んだ細い道を曲がった先に建っていたのは、緑に包まれた、町家というよりは民家に近い、古さから優しさがにじみ出たような木造の建物。

冷たい冬の小雨に濡れ、一層濃くなった木々の間を縫うようにして玄関まで進むと、木製建具をカラカラと開けて竹紙竹筆専門店 Terra(テラ)の小林亜里さんが出迎えてくださいました。

terraさん

冬の朝ならではのひんやりとした空気が漂う玄関は、目を引くインテリアや飾り付けはないはずなのに、周囲に置かれた暮らしの道具やそれらの置き方から洗練されたセンスが滲み出ていて、まるでこの家だけが他とは別の時間の流れを持っているような柔らかな雰囲気と強い世界観に、一気に引き込まれてしまいました。

「竹紙」は、その名の通り「竹」でできた手漉き紙のこと。

工程は似ているものの、コウゾやミツマタを原料に使う和紙とは異なり、繊維が固いという性質から、1年以上、少なくとも100日間は水に漬け込み、数日間煮てから繊維をつぶして取り出すなど、たくさんの時間と手間を経て作り上げられます。

竹紙

紙の表面に現れるその繊維質は、作り手によっても、その工程によっても竹の種類によっても大きく変わり、生成りの色はもちろん、草木や泥によって丁寧に手染めされることで、さらに豊かな自然を宿し、この世に2つと同じもののない、オリジナルの1枚となります。

terraさん

Terraさんでは、全国各地に点在するという竹紙職人さんが手掛ける様々な紙を取り扱われており、和室の隅にずらりと並べられた作品たちを見るだけでもその豊かな個性に驚かされます。

竹紙

竹紙は中国や東南アジアでは宗教や神聖な行事に取り入れられたりなど、 1000年以上の歴史を誇りながらも、
日本では各藩の産業として保護されることが多かった和紙とは違いメジャーにならなかったことから、今でも作り手個人の個性を表現する手法が色濃く残っているのだそうです。

竹紙

全国各地の職人さんは、それぞれの土地にある竹を使って紙を漉かれているそうで、今回は地産地消をかかげる「エシカルハウス」のコンセプトに基づき、京都で竹の産地として有名な西京区洛西から仕入れ、この家で実際に漉かれているという小林さんの竹紙をオーダーでお願いすることになりました。

竹紙

もともと出版社にお勤めで、紙に触れる機会が人一倍多かった小林さん。

どうして竹紙を漉かれるようになったんですか?という質問に、「これまで紙にはずいぶん触ってきたけれど、原料である植物のことを考えたことはなかったんです」と話してくださいました。

竹紙

ある時、毎日使う紙についてもう一度見直してみたい、という気持ちになり日本に竹紙の文化を甦らせた小説家の故水上勉さんのすすめで、一から竹紙を作ることに挑戦されたのだそうです。

竹を切るところからはじめて、1年間水につけ、何日もかけて水に晒しながら洗い、煮込み、砧(きぬた)を使って叩きながら繊維をつぶし、水に漉く。

その繰り返しで出来上がった初めての竹紙は、「不出来だったけど、美しかった。すごく自然を感じました。」

水上勉さん

「水上先生に話したら、その感動を人に伝える仕事が待っています、と言われたのです。」

手間を惜しまず自分の手で1つ1つ丁寧に作り上げることの尊さ、その精神を伝える竹紙作りを仕事に選んだ小林さんはエシカルの考えを超え自然の環の一員となっている、笑って話す穏やかな表情に、この家を包む強い世界観と優しい空気の理由を感じ取ることができました。

お茶

小林さんが入れてくださった濃く深い緑色をしたあたたかいお茶には、ほのかな苦みと甘みの中に豊かな自然が薫り、その丁寧な暮らしぶりが滲み出ているような気がしました。