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大正ロマン弐号 紅い階段の家

大正ロマン弐号 紅い階段の家

<十七.憧れの緑青>

ついに完成した「紅い階段の家」。  保護シートも外され、長らくベールに包まれていた屋根がお目見えした。上の写真のとおり、見なれた瓦葺とは様子が違う。これはよく見かける桟瓦葺ではなく、「一文字葺」という葺き方。寺社や茶室、和風住宅の玄関屋根や門の屋根で取り入れられる、伝統的な金属材による屋根の葺き方の一つである。実はこの一文字葺、金属加工が多く手間のかかる施工方法でもある。小さな金属板を噛み合わせることで大きな屋根面を造るのだが、この町家の屋根は変形しているため、現場で寸法を合わせて加工しなければならず、職人の腕の見せ所でもあった。

 緑青とは、銅が年月とともに酸化して発生する青緑色の錆で、腐食を防ぐ効果を持つ。日本住宅において屋根材に金属が取り入れられたのは家康の時代、江戸城の天守閣に用いられたのが始まりとされる。然しながら実際に普及するのは明治時代以降。街中の和風住宅でも銅で葺かれたものを見ることができる。本来なら赤茶に輝く銅板を用いて緑青へ変化する屋根を造りたいところではあるが、古来より銅は高級材。今回はコストを抑えながらさらに耐久性能の良い「ガルバリウム鋼板」を採用。この緑青色の屋根が年月とともに渋みを増して、この地域に溶け込んでいく日が楽しみである。